変わらないもの−3
「そういえばあのスパイはどこ行ったんや…?」
「確かに…あ、おった、志摩さん!」
その件の廉造の姿がないことに気付いた勝呂が辺りを見渡すと、子猫丸が離れた壁際の浴槽にその姿を認めた。子猫丸が声をかけると、廉造はぴくりとしただけで、壁に手をついて俯く姿勢を変えない。
「志摩さん…?」
「俺は一人になりたいんや!声かけんで!!」
「お前どうしたんやさっきから!おかしいで!?」
「…俺が…おかしい……?」
しかし廉造はいつになく排他的なことを言い出した。勝呂はそれに湯船から立ち上がり、廉造を見据える。
それに対して、廉造もザパァッと音を立てて立ち上がった。
「おかしいのは皆の方やろ!皆して爽やかにお湯つかって仲良く裸の付き合いて…なんやねん気持ち悪い!!こんなん全部嘘っぱちや!!俺はただ正直者なだけや!!」
怒鳴る廉造に、勝呂は怒るより先に驚きに肩を揺らす。だがここではっきりさせようと思ったのだろう、負けずに怒鳴り返した。
「やっぱりお前まだ何か蟠っとったんか…!だったらはっきり言えや!!」
「じゃあ言わせてもらうわ!すぐ隣で、出雲ちゃんと杜山さんと霧隠先生が、まっぱなんやで!!??」
しん、と浴場は静まり返る。勝呂は優秀な頭を回転させ言葉を飲み込もうとしているが、うまく回っていない。
「なんの、話をしとるんや…?」
「まっぱですよ!!!それをどーにかして見たいと思うのが男やろ!!!」
「お前…っ!!さっきから何や静かやと思っとったら…まさか…!!」
「ふっ、安心してください、この銭湯のセキュリティは完璧ですよ。スパイの俺が保証するんやから間違いない…!」
何の話をしているんだろう、と急速に呆れて冷めていく。真顔で何を言うかと思えばこれだ。イルミナティでこのバカなところを矯正してもらった方が良かったのではないか。
「もうこうなったら…この壁をのぼるしかない!キリク!!夜魔徳君俺に力を…!」
「やめろ志摩バカ!!」
「ほげえっ」
錫杖をガラス戸を突き破って呼び出すと、それに夜魔徳を宿らせて身体能力を強化し、浴槽から跳躍する。それを燐が飛び蹴りで沈めた。
「お前それもう覗きじゃねーよ!完全に見に行ってるだろ!!」
「ぶはぁっ…なんでや奥村君!奥村君かて女子の裸見たいやろ!!」
浴槽で燐と廉造は対峙し、今度はこの2人が言い合うことになる。
「見たくねーよ!!つかお前は一ノ瀬がいるだろ!!」
「アホか!!朝祇の裸まじまじと見たら最後、ここでぶち犯すで!?!?」
「なっ、ななな何言ってんだお前!!」
「せやから代わりに女の子の裸で我慢したいんやろ!!ここでおっ始めてもええなら速攻フルおっきやで!!!」
バカだ。
何を言っているんだあいつは。一度武力行使した方がいいのでは?と思った朝祇も、ゆらりと立ち上がる。
「黄土が瑞獣、」
「ま、待て一ノ瀬!早まるな!」
だがさすがに勝呂に制され、渋々お湯に浸かり直す。一方で燐たちの会話はまだ続いていた。
「でも正直に言うと…しえみのは見たい!!」
「兄、さん…?」
さらに燐までそんなことを言い出すと、雪男たちがざわつく。いったい何を言い出すのか。
「同志よ!!」
「お前と一緒にすんな!俺は、ふ、2人きりのシチュエーションで見たいんだ!!俺以外の誰にも見せたくねーんだよ!!」
「うわぁ…」
思わず朝祇は引いたような声を出してしまった。生々しい欲にドン引きである。できれば友人のそんなこと聞きたくなかった。
「どうしたんや奥村君…!心の中の恥ずかしい願望が駄々もれや…!」
「志摩といいさすがにおかしい!悪魔の仕業じゃ…」