変わらないもの−7
それから少しした、塾のない平日。
今日は放課後に"ぽんちゃん"でもんじゃを食べながら勉強しようということになっていた。廉造が集中できないからだ。
放課後になってから、朝祇は廉造と連れ立って廊下に出た。同じタイミングで燐も隣のD組から出てくる。
「おっ、奥村君やん」
「よっ!」
「あ、そだ、奥村もぽんちゃん来る?そこで勉強しようってなっててさ」
「マジで!?いくいく!勝呂と子猫丸も誘おうぜ〜」
燐も誘えばふたつ返事で頷いた。子猫丸に燐が連絡すると、すぐに子猫丸も廊下を歩いてきて合流した。
「たまにはもんじゃ食べながらてのもええね」
「せやろ〜」
「おし、次は勝呂だな!」
燐はスマホを全員が話せるよう通話モードを変える。その両脇に、騒がしい廊下でも声が入るよう残り3人がくっついて画面を見た。
「勝呂、これからぽんちゃん行かね〜?」
「今日塾ないから試験勉強するんです」
「もんじゃつつきながら〜」
「勝呂もおいでよ」
皆で喋ると、電話口から勝呂の声が聞こえてくる。
『それええなぁ。師匠の用事済ましたあとやったら…ってはぁ!?ちょ、…』
すると、勝呂は慌てたようにライトニングと話し始めた。
実は、勝呂はライトニングの強さに惚れ、土下座までして弟子にするよう頼み込んだのだ。ライトニングは渋りながらも了承し、今や勝呂はライトニングの弟子として、放課後はライトニングの講師室にダッシュして通っている。
今でこそ子猫丸は受け入れているが、話が明らかになったときは明陀育ちたちはなぜか拒否反応を示していた。廉造は未だに受け入れていない。
『すまん師匠がトラブルや!切るわ!勉強気張れや!』
「完全なジャーマネやん!」
ぶつりと切れた通話に廉造が嘆く。仕方なく、4人でぽんちゃんに向かうことにした。
***
美味しそうな匂いを煙とももに発するもんじゃを時折つつきながら、4人は助け合いつつ勉強を進めていく。分厚い聖書を読むのは燐で、もんじゃのお陰で集中を保っていた。
「その日ヨシュアはシケムにおいて…シケムってなんだ?」
「…なんやろ、僕も勉強不足や…最近捗ってなくて」
「俺も分かんないわ。覚えんの苦手」
「でも一ノ瀬、いつも『ナントカが瑞獣〜』ってやってんじゃん」
「あれはなんかほら、手騎士的な何かで覚えなくても出てくんだよ」
真っ先に詠唱騎士は無理だと思った朝祇だ。いずれはとらねばな、とは思っている。そして相変わらずシケムとは何か分からない。
「はぁ〜、こんなとき坊おったら便利なんになぁ〜…教典とかめくるんしんどぃし…」
「まだ言ってんのか、諦めろ。勝呂はもうライトニングのジャーマネなんだよ」
「坊がジャーマネて!心機一転言うて頭まで丸めてもうたし!」
廉造はだいぶ引きずっているらしい。勝呂はトレードマークでもあったソフトモヒカンを刈って、短い黒髪になった。弟子になるにあたっての気合いなのだろう。
「僕らかて、いつまでも坊に頼られへんよ…」
すると、子猫丸が真面目な声音で言った。全員の視線が向くと、少し照れながら話し始める。
「その、僕今、システム開発の勉強してて…」
子猫丸はこれまでやっていた戦闘データの分類から、それを生かす方法を考えているらしい。悪魔にスマホをかざして認識させると、その悪魔の致死節や弱点が出てくるアプリを考案中なのだそうだ。
「子猫さんも前に進んではるんやね。…皆、そうやってそれぞれの道を行くんやろうなぁ」
「そーだぞ、お前が一番メチャクチャな道行ってんだからな」
「てへっ」
燐の言う通り、廉造が"それぞれの道"の筆頭である。まさにゴーイングマイウェイといっとところか。だが廉造は笑いつつ居ずまいを正す。
「いや実は俺も、前に子猫さんが言うてた通り、詠唱騎士はやめたんや。騎士と手騎士受けよかなーって!せっかく戻って来れたし、ちょっとは頑張ってみよかなて。あと…」
そしてにやり、とこちらを見て肩を抱いてくる。
「朝祇の騎士(ナイト)になったろ、てな」
「ほんと?じゃあ後ろは任せろ、俺の銃で焼き払うから」
「アッ、圧倒的火力…!」
「志摩だっせー」
「うっさいわ!」
ケラケラと笑う燐に廉造が噛み付く。それを見ながら、子猫丸も朝祇に訊ねてくる。
「一ノ瀬君は、竜騎士と手騎士と医工騎士やったっけ?」
「あー、医工騎士は今回は受けないかな。間に合わないし…でも、手騎士二種受けるか迷ってるとこ」
物体への降魔術を手騎士二種という。これについては難易度が高すぎるため、塾にも講座がない。仕方なく独学でやっているが、朝祇はまだ力の一部を銃に宿すことしかできなかった。
「まぁ、そもそも早く親に許可取らなきゃだけどね」
苦笑すると、子猫丸も「せやね」と困ったように笑う。少し難しい気持ちを知っているからだろう。
そこへ勝呂もやって来て、勉強会はようやく締まりのあるものになった。しかし朝祇は、「そうだ、京都に行こう…」と著しく低いテンションを内心抱えているのであった。