君の神様−2
出張所に着くと、まず半壊の建物が目に入った。イルミナティのテロによって被害を受けたところだろう。修復のための足場が組まれ、作業員が出入りしている。
ちなみに、イルミナティから廉造が
帰ってきたことは志摩家には報告済みだそうだ。
玄関の近くまで行くと、ちょうどそこから柔造が出てきた。錫杖を持っていないため、祓魔の仕事ではないのだろう。
「えっ、廉造に朝祇!?どないしたん!?」
「こんにちは」
「いきなり堪忍なぁ柔兄。せやけど、一大事やねん」
そうかなぁ、なんて思って聞いていると、廉造はここまでやってきた理由を簡潔に語る。
「これから、朝祇のお母さんに付き合うとること言おうと思うてんねん」
「なっ!息子さんを俺に下さいイベントってことか!?」
「せやねん!やから準備せんと!」
「お、おとんに言うて来るわ!お前はおかんに連絡しとき!」
柔造は廉造と似たようなリアクションをすると、ドタドタと走っていく。廉造は電話で母親に連絡を始めた。
だんだん大事になってきて、朝祇はなぜこんなことに、と遠い目にならざるを得なかった。
やがてすぐに柔造がドタドタと八百造を連れて戻ってくる。
「息子さんくださいイベントっちゅうんはホンマかいな!?」
「えと…」
「俺かてお見合いやし、柔造と蝮ちゃんとこは参考にならんし…」
どうやら初めてのことらしく、八百造もテンパっていた。柔造は蝮と結婚することになったが、親も子も互いに気心知れた仲で、ほぼ身内のようなもの。
「しかも朝祇君とこシングルの一人息子やんか!無駄にぎょうさんおるウチとはワケが違うねんぞ…!」
「じゅ、柔造さん…」
いや、そもそも嫁に行くとかでもなければ結婚するわけでもない、何をそこまで考えているのか。ツッコミ不在の空間にどうすればいいのか考えあぐねていると、「あら?」と凛とした声がかけられる。
「一ノ瀬君に廉造君やないの」
「女将さん!」
やって来たのは虎屋旅館の虎子だ。そういえば、被害を受けた出張所の機能の一部を虎屋に移しているのだと聞いた。それもあって虎子がここまで来たのだろうか。
「どないしはりましたの、そないに慌てて」
「実は廉造が一ノ瀬君のお母様に嫁にくれと言いに行くてなりまして…」
「嫁?何言うてはりますの、2人とも男の子なんやさかいに、婿も嫁もあらしまへんやろ」
朝祇が言えなかったことをズバリと告げた虎子には頭が上がらない。というか2人の関係には何も疑問を抱いていないのは、知っているということか。
「大の大人2人が何を慌ててはるんやか…それじゃあ、あちらさんのお母様には勝てへんのやないですか」
「うぐっ…」
「母親はそないに甘い生き物やない、大事な一人息子をどこの馬の骨とも分からん家にやれますか。シャキッとしてもらわんと」
「ぐっ…」
まさに母は強し。虎子に八百造も柔造も言葉を詰まらせた。虎子は、何やら叱られているらしい廉造に気付き、電話先を察する。
「廉造は志摩の奥さんと話しとるんですか?」
「え、ええ…」
それを指示した柔造が答えると、虎子は廉造から携帯を引ったくった。廉造は驚いてなすがままになる。
「志摩さん?勝呂です。話は聞きました…ええ、男衆は使いモンにならへんわ、志摩さんが仕切ってあげてください。ウチの旅館の部屋貸しますさかい…ええんですよそんな。ほな、また後で」
虎子は携帯を今度は八百造に渡す。廉造の母親からの指示を受け取らせるためだ。所長たる八百造だが、電話先の妻にたじたじになっている。
電話を切ると、それを取り成すように所長らしく指示を出す。
「廉造は帰って支度、柔造は駅前で贈答品用意して来い。俺も帰って準備せな…一ノ瀬君、手間やけどお母様を虎屋に案内してくれへんか」
「あ、はい」
頷くと、柔造は走って駅前へと向かう。八百造は廉造とともに帰宅して何やら準備をするらしい。虎子も部屋を設えるため旅館へ戻った。
朝祇は、何か大変なことを仕出かしたんじゃないか、と思いながらバス停へ向かうのだった。