君の神様−3


場所は変わって虎屋旅館の一室。

純和室の大きな机を挟んで、志摩家と一ノ瀬家が面と向かう。机には簡単な和菓子と茶のセットが置かれていた。
志摩からは廉造の両親が机の前に正座し、柔造が一歩後ろに控える。その反対側に真由美が座る。朝祇は廉造とともに、両家の間に机の別の面に座った。反対側には両者を取り成すように虎子がいる。まるでお見合いだ。


「わざわざお呼び立てするような真似をして申し訳ありまへん」

「いえいえ、こんな素敵な旅館に来れるなんて嬉しいです」

「そない言って頂けて光栄です」


真由美と廉造の母親、虎子の母親衆が和やかに当たり障りない会話をする。八百造と柔造はそれを見守る。2人と廉造は、なんと着物だ。正装だと言っていた。


「…で、朝祇。大事な話って、そろそろ聞いてもいいのかしら」


一頻り長い挨拶が終わったところで、ついに真由美が切り出した。まずは祓魔師の話をするため、朝祇は少し緊張しながら口を開いた。


「…進路のことで、話があってさ」

「あら、もう大学?」

「いや…実は、俺、祓魔師になりたいんだ。正十字騎士團の」


ようやく言えた。どんな反応をするだろうか、と窺い見れば、真由美は特に驚いた様子はなかった。


「…そうかな、とは思ったの。学園に行きたいって言ったときから、何となく分かっていたし」

「え、そうなの?」

「ええ。でも、正十字騎士團が具体的にどんなところかは知らないわ。祈祷師みたいなものだと思ってるんだけど」

「それについては正十字騎士團日本支部京都出張所所長の私、廉造の父である八百造からお話し致します」


一般的な祓魔師のイメージを抱く真由美に、騎士團の高位の職に就く八百造が説明してくれることになった。


「正十字騎士團は、祓魔権という公権力の行使を認められた公益社団法人です」


そもそも社団法人とは、2人以上の人間(社員)が何かしらの事業を行う団体である社団で、法人格を与えられたものをいう。法人格とは、人間でない法の適用を受けるものに与えられるもので、人間と同じような扱いを法律上受けることになる。
社団法人は一般社団法人と公益社団法人に分かれる。一般社団法人は自己の利益を求めるもので、株式会社などがこれにあたる。一方、公益社団法人は事業の50%以上を公益性の高いものに当てており、公益社団法人法に則って認められたものを指す。
公益社団法人として分かりやすいのは、ゴミ収集場や収集車を運営する会社だろう。また、教育を行う学校法人、宗教活動を行う宗教法人なども公益社団法人にあたる。

正十字騎士團は、自衛権を行使する自衛隊、警察権を行使する警察と並び、社会を悪魔から守るための祓魔権を行使する公益社団法人なのである。そのため、民間人ながら労働三権はすべて認められていない。
その代わり、公務員ではないため制約が少なく、労働三法や銃刀法など様々な法律の例外とされる。

そうは言っても悪魔が見えなければ騎士團を懐疑的に見るのも無理はない。政教分離に反するのではという声も定期的に上がる。六法全書にも明らかな騎士團の立場を不要とする政治家はこれまで多くいたが、日本においてそれがまともな議論になったことはない。

それはヴァチカンというキリスト教の総本山からの圧力だけではない。悪魔災害によって日本社会、引いては日本経済が混乱すれば、世界第三位の経済大国たる日本の凋落と投資の逃げ先である日本円の暴落が世界に深刻な悪影響を与える。結果、全世界が互いに互いの国内での騎士團の扱いに注視する状態なのだ。
また、騎士團は名前は確かにキリスト教らしいが、明陀宗のように仏教徒もいれば、神道やイスラームやヒンドゥー教など様々な宗教を包摂する。政教分離には反しない。

そんな話を所長らしくすれば、真由美はよく分かっていなさそうにしながらも納得はしているようだった。


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