君の神様−6




「ささ、皆さん、お話に一段落ついたようでしたら、またほうじ茶淹れ直しますさかい、お茶にしはったらどうですやろ」

「…ええですね、ここのお茶は絶品やもの。一ノ瀬さん、お時間大丈夫ですの?」

「大丈夫です。ぜひ」


しんみりとした空気を明るく転換させたのは、やはり女将たる虎子だった。廉造の母と真由美もすぐに応じ、母親たちのお茶会が始まる。
八百造は仕事があると言って先に退出し、朝祇と廉造、そして柔造が残された。


「いやぁ、それにしても朝祇君が義弟になるんやなぁ」

「あーめっっちゃ緊張したわぁ…」


朗らかに笑う柔造に、廉造は全身の力を抜く。朝祇も知らず強張っていた体を脱力させた。


「どや朝祇君、俺んことお義兄さんて呼んでみぃ」

「えーと…柔造お義兄さん?」

「っ、ええなぁ!これええなぁ!でかしたで廉造!」

「何言うてるん柔兄…」


呆れたような廉造の声にも気にせず、柔造はニコニコとしている。退出してもいいものを、母親のお茶会によって帰れない2人のために控えていてくれているのだろう。


「そういえば2人とも、そろそろ認定試験やろ?なんの称号取るん」

「俺は騎士と手騎士やで〜」

「俺は手騎士と竜騎士です。手騎士二種も迷ってて…」


廉造の希望は分かっていたのだろう、柔造は頷いてから、朝祇の志望に驚く。


「候補生で二種なんて初めて聞いたわ…取れるもんなんか?」

「ちょっと微妙ですね…独学なんですけど、なかなか悪魔本体を降ろすことができなくて」

「せやったら、ご実家にぎょうさん資料あるんやないか?ご先祖さんの」

「…あ、そっか」


すっかり失念していた。それこそ先祖は降魔術に長けていたのだ、たくさんのヒントになる資料が実家の地下室にあるはずだ。


「明日には帰るからな…実家に泊まるか。廉造も来る?」

「行ってええん?」

「おい廉造、くれぐれも自重せえよ」

「分かっとるわ!」


***


その夜。
実家の地下室で資料をいくつか持ち帰り、今は自室のベランダにいる。不浄王のとき、結界を張ってここに待機していたのが懐かしく感じられた。

空には晩秋の明るい月が浮かび、千年の都を照らしている。

そこへ、風呂から上がった廉造がやって来て、隣に立つ。自然に肩を抱かれ、いつもよりも温かい温度に身を寄せた。


「…なんかさ、俺らいつも、ことあるごとにこうやって夜空見てる気がする」

「…せやねぇ」


中3のとき、スパイになることを打ち明けられたのが始まりだ。そのときに、たとえどんなことになっても側にいることを誓った。
次は旧男子寮合宿のとき。初めての戦闘で恐怖に怯えた朝祇を、中庭で廉造が励ましてくれた。
そして、伊豆の海岸での任務。堤防の上、廉造と文学者の言葉をもじって愛を伝え合って、互いにますます惹かれているのを感じた。

次に夜空の下に寄り添ったのは、学園祭直前、イルミナティ潜入を控えてのことだった。夜景を見ながら、中3の夜を思って、改めて覚悟を決めた。

今、2人は再び京都の月夜の下にいる。
あれからたくさんのことがあった。楽しいこともつらいこともあった。しかしいつも、側に廉造がいた。それはどんなに幸せなことなのだろう。


「俺な、たまに思うんや。朝祇て、俺の前にいきなり現れた神様みたいやなって」

「仏教徒が何言ってんだよ。ま、実際神様宿ってるけどね」

「はは、そういうことやないて。…いつも俺のことを支えてくれる、神様みたいな人。そないな人と会えて、ホンマ、それまでのつらかったこと全部差し引いても余るくらいの幸せなことやと思うとる」


廉造はそう言うと、朝祇の両肩を優しく掴んで向き合う。月明かりに照らされた廉造の顔を見上げると、本当に幸せだ、というような表情をしていた。


「君と会えた、それだけで、俺の人生幸せなんやって思えるんや」

「…これからも、お前の神様でいてやる。だから…ずっと、側にいよう」

「おん、ずっとな」



2人の影が重なる。
夜空の月だけが、それを見ていた。


the Divine for you
君の神様



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