君の神様−5
しかしそこで起こったのが、忌まわしいあの事件だった。
「学校から人がいなくなったのを見計らって、ちょうど一人だった俺を、いじめてた奴らが捕まえて…」
廉造が黄龍を祓う準備のために出張所にいる間、学校で一人だった朝祇はいじめの犯人たちに捕まり、性的な暴行を受けそうになった。言葉を濁した朝祇を見て、すかさず廉造が口を開く。
「そんな朝祇のピンチのときに、黄龍が朝祇を守るために力を使って、教室をぶっ壊したんです」
「あ、あの教室が一時期使えなくなった事件?突風のせいって聞いてたけれど…」
「黄龍が守ってくれたんだ。廉造も駆けつけてくれて、意識を失った俺は騎士團の出張所に運ばれた」
黄龍によって教室は半壊し、廉造が鍵を使って出張所から学校へ駆けつけ、出張所へ運んでくれた。
そして目を覚まし、朝祇は想いを告げたのだ。
「俺、もうだめだと思った。そのときに、ふと気付いたんだ。…俺は廉造が、好きなんだって」
真由美が息を飲む。
ここまでなら友情の枠に留まるものを、突然、恋慕を寄せているのだと言い出したのだ、当然である。
「出張所で目が覚めたとき、俺はそれを側にいた廉造に伝えた。家のことや色んな気持ちの間で葛藤しながら頑張る廉造に励まされたし、助けられた。側にいたいって、思ったんだ」
「俺も、同じ気持ちでした。何もかも受け入れて寄り添ってくれる朝祇に、救われたんです。せやから、俺もすぐに応えたんです」
呆然としながらも、真由美は言葉を聞いてくれていた。話をする2人以外は沈黙しかなく、部屋の空気は目に見えそうなくらい重く感じられた。
「守りたいって、思った。黄龍のこと、この街のこと、母さんのこと、そして廉造のことを。そのために、祓魔師になろうって決めたんだ。俺の力で、大切なものを守れるように」
それでも朝祇は全力で本心をぶつけた。偽りなく、自身の気持ちと考えを、必死に伝えた。
「だから、だから母さん。祓魔師になること、そして、廉造と付き合うことを、認めてください」
朝祇は親指をついて少し後ろに下がり、頭を下げた。
同時に、隣の廉造も居住まいを正す。
「どないな困難も、2人で乗り越えます。ずっと互いに側で寄り添います。せやから…朝祇と一緒に、同じ人生を添い遂げさせてください!」
廉造も続いて頭を下げた。
沈黙が降りる。自然と目を瞑ってしまっていた。 少しして、真由美の声が響く。
「2人とも、顔をあげて」
朝祇がゆっくり体を起こすと、遅れて廉造も顔を上げる。真由美は、特に怒ったようでもなく、いつもと変わらない様子だった。
「…朝祇。あなたが色々なことを黙っていたのは悲しいわ。でも、それもあなたの優しさなのは分かってる」
真由美は朝祇の目を見てそう言うと、廉造に目線を移す。
「廉造君、これであなたが一方的に朝祇を守るなんて言っていたら認められなかった。でも、ちゃんと2人でって言ってくれたわね。朝祇は男だもの、きちんとそれを分かっていてくれて良かった」
「…はい」
真由美はふ、と笑う。それは、様々な感情を包摂する、大人らしいものだった。
「…同性どうし、色んな困難があることは、分かってると思う。でも、同性だからこそ、それこそ男女のカップルよりもよっぽど対等でいられるわ。それを大事にするのよ」
「母、さん…」
真由美は、たった一滴だけ、頬に涙を伝わせたが、すぐにそれも拭き取られてしまう。そして笑って言った。
「あなたたちの人生は、あなたたちのものよ。好きに生きなさい」
「っ、ありがとうございます!」
廉造はすぐに頭を下げる。そして、八百造たちも全員、同時に頭を下げた。真由美はそちらに向き直ると、同様に畳に指をつく。
「息子をよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしゅうお願いいたします…!」
全員の視線が床に向かったその間に、朝祇は慌てて目に溜まったものを拭う。それを見て見ぬふりをしたのは、虎子ただ一人だった。