逃げない−6
「祓魔師を目指すとなれば、あなたもこちら側。祓魔師といえど不浄王のことは明陀宗の一部にしか知られていない秘密ですが、まぁ、僧正血統である志摩家五男と恋仲であれば身内同然でしょう。記憶を消すまでもありません」
確かに、メフィストの言うことは一理ある。だが、当事者はそれでいいのだろうか。
「柔造さんたちは…どうなんですか」
八百造以下、 志摩家の大人たちに伺いを立ててみると、八百造と柔造は難しそうな顔をしていたが、金造は変わらない。
「別にええんやん?勝手にせえ」
金造は良くも悪くも無関心だ。冷たいようで、しかし金造の場合はどんな結果でも受け入れてやるという優しい覚悟の表れでもあるのだろう。
「…俺は、あまり気が乗らん」
「俺もお父と同じや」
しかし、八百造と柔造は厳しい表情である。自然、廉造と朝祇は固くなる。
「やって…男同士やで!?お前らそれでええんか!?」
「そっちかい!!」
「お父の言う通りや!一ノ瀬君、廉造でええんか!?こんな煩悩まみれのエロガキのために人生かけてもうてええんか!!??」
「柔兄までなんなん!?」
柔造はともかく、八百造の言うことはもっともだし、これから言われ続けることだ。どこにいってもついて回る。柔造の言うことも、朝祇の人生を左右する重要な分岐点であることを大人として意識させてくれていた。
「…男同士だってことの問題は、この先ずっとついて回ります。きっと、それはずっと変わりません。でも、それも全部、俺は志摩と乗り越えたいです」
八百造の小皺のある目を見てはっきりと言う。息子である廉造にも関わることなので、困難を承知であることは伝えたかった。
「それに、俺は志摩がいいって、さっき襲われたときに自覚しました。そして、志摩が好きだからここにいるんです。じゃなかったら、あなた方から許可なんて得ずに黄龍と逃亡してます」
ついで、柔造を見て言った。廉造でいいのか、なんていうのは冗談半分なのだろうが、本気の部分もあっただろう。
「何よりも、俺は志摩のお陰で勇気が出たんです。置かれた状況から逃げないで立ち向かうことに。…両親が離婚してこっちへ来たので、母を一人にしてしまうことは心苦しいし、黄龍っていう難しいものも背負ってしまったけど、俺は逃げません。後ろ指を指されることからも、困難な道に進むことからも」
ずっと見ないふりをしていた。離婚してシングルマザーの家庭になり、京都という新しい環境で暮らす中で、母を置いて東京に戻ることと、この街に留まること、どちらを選ぶのか先伸ばしてきた。
でも、母の偉大な愛に気付いて、背中を押してもらえた。そして何よりも、明陀宗のしがらみの中で苦しみ傷つきながら、それでも生きている廉造を見て、心を動かされたのだ。
「それに、こいつとなら、頑張れると思うんです」
顔をあげ廉造を見遣ると、目にはいつもより多目の水分が溜まって潤んでいる。今日は涙腺弱いのかな、なんて思う。
「だから、俺は祓魔師になります。人間の行いから、黄龍を。不浄王から、黄龍が守ってくれているこの街を。そして、色んな困難から志摩を。俺の力で守れるように」
言い終わると、一瞬の沈黙の後、メフィストの拍手が響いた。
「BRAVO!いやぁ、素晴らしいじゃないですか!我が学園に招くには十分な人材だ」
どうやらお眼鏡に叶ったらしい。実際に奨学金をもらうには自分で努力する必要があるが。
一方、金造は「ほぉ、なかなか言いよるのぉ」と軽いノリで賞賛?する言葉をくれたが、八百造と柔造は肩を震わせていた。何かまずかったかな、と不安になった瞬間、2人揃って顔をあげ、廉造を睨んだ。
「「お前にはもったいないわ!!」」
まさかの親子でハモった。廉造はびくりと体を震わせる。八百造は続けてまくしたてた。
「なんでお前はこの子みたいに覚悟決めんのや!志摩の男として恥ずかしい!!」
「せやで廉造!!一ノ瀬君にこないなこと言わせて何黙っとんねん!」
「柔造!!お前が一ノ瀬君を嫁にもらいぃ!」
「おん、幸せにしたるわぃ!!」
「…っ!させるかぃ!!一ノ瀬君は俺のもんや!!一生俺が守り抜いて幸せにすんねん!!」
がし、と廉造に抱き締められ、また胸元に顔を押し付けられる。廉造はこの姿勢で抱き締めるのが好きなのか。朝祇自身、廉造の温もりや匂い、心音を感じられるこの姿勢は好きだ。
好きだが、頭上でとんでもない舌戦が繰り広げられているのは勘弁して欲しい。だんだん柔造と廉造、どちらに嫁入りするかという話になりつつある。どちらにせよ志摩家に入るようだ。
まぁいいか、と、朝祇は廉造の胸に擦り寄った。
さりげなく、「一生守り抜いて幸せにする」なんてプロポーズのようなことを言ってくれた廉造に、鼓動を速めながら。