正十字学園−5


「ふっ…正直なところ、私の手札であればこの交渉には勝てるのですが…志摩廉造君の居場所を用意するのは容易いですし、上級悪魔を使役する戦力がこちらにいるのは心強い。何も、いたずらにあなたの提案を却下する必要はないんですよ、元々。それに何よりも、」


メフィストは相変わらず楽しそうにしながら立ち上がる。机を周り、朝祇のすぐそばに立って腰を屈め、顔を近付ける。


「黄龍という力を持ち、頭も良いあなたは、まるで敵陣に達したポーン。どんな役にでもなれる。最強のクイーンという定石を選ばず、効果的なルーク、効率的なビショップ、はたまたトリッキーなナイト…どんな役を選ぶんでしょうか?」

「目の前で人を駒呼ばわりですか?」

「プレイヤーになりたいんですか?」

「うっかり転んで板を滅茶苦茶にするかもしれません」

「それも一興です」

「……そろそろ帰ります。廉造のこと、ありがとうございました」


もう十分だろう。どうやら買い被られているが、朝祇はそんなメフィストのゲーム板を乱そうとは考えていない。


「お帰りですか?それではその扉を寮に繋げておきましょう」

「どうも」


指差されたのは、執務室のメインのものではない小さな扉。ティーカップを置いて立ち上がり、そちらに向かう。


「あぁ、サタンの息子のことはくれぐれもご内密に。どの程度までご存知だか知りませんが、同じ祓魔塾に通います」

「そんな面倒なこと喋りませんよ。祓魔塾に通うのも好きにしてください」

「おや、驚かないんですか?サタンの息子が祓魔師になるなんて」

「サタンだかメタンだか知らないけど、どうでもいいです。俺はただ、祓魔師になるだけですから」


もう本当に余計な話は終わりだ。サタンの落とし胤が祓魔師になろうと、勝手にすればいいだけの話。それよりも、目下朝祇の目標は廉造より強くなって少なくとも廉造は守れるようになることだ。そして、黄龍を元気にする方法を見付けることである。
だがドアノブに手をかけて、ふと言いたいことができたので振り返る。


「案外、俺はチェス板に突然現れた香車が成った成香かもしれませんよ」


ここは日本だ、将棋で例えろ。そんな嫌味も籠めて、朝祇はニヤリと笑った。そして、そのまま部屋を後にした。





「くく、まったく…今年は豊作だ」


***


寮に帰って一時間ほどして、廉造たちが帰ってきた。道中で一緒になったのか、子猫丸もいる。
おかえり、と言おうとして、リビングに入ってきた勝呂と廉造にポカンとした。


「え………そんなオフェンシブでいいの?」

「気合いや!」

「かわええやろー」


勝呂は髪の毛の真ん中だけ金髪にして立たせ、全体的に後ろに流している。両耳にはご丁寧にピアスまで空いていて、完全にチンピラだ。
廉造もピンクブラウンというがただのピンクで、めちゃくちゃ目立つ。タレ目と緩い笑顔もあって、とても軟派な印象を受けた。


「驚きはりますよね、やっぱり…お二人とも、怒られてまいますよ」

「祓魔師になるまで帰らへんからええねん!」

「坊に同じく〜」


子猫丸はさすがに苦言を呈したが、二人はどこ吹く風だ。
朝祇としては、まぁ似合ってるからいいのかな、と無理矢理納得させた。廉造のピンクは正直うるさいが、似合っているからすぐ慣れるだろう。

こうして、4人の学園生活が始まる。ずいぶん形から入った2人に苦笑を隠せないが、これはこれで楽しい思い出として後で振り返れたらいい。そう思った。




「どう思うよ黄龍」

『なぜ我に聞くのだ阿呆』


30/187
prev next
back
表紙に戻る