祓魔塾始動−4
初回授業こそ一悶着あったものの、祓魔塾の方は順調な滑り出しとなった。
わりとすぐに新たな女子、杜山しえみが入塾して華やかさが増したように思う。 まだいくつかの科目が始まっていないが、それも楽しみに思える。
学園の方もつつがなく通っている。
今は退屈な古文の時間、前の席に座る廉造は教科書の裏に悪魔薬学の教科書を隠して小テストの勉強をしている。朝祇はとっくに暗記してある。
古文の授業も予習して理解した範囲なので、おじいちゃん先生の睡眠術の時間でしかない。
余裕と言えば余裕なのだが、いかんせん眠く、寝ている生徒には目敏い先生の授業では寝られない。窓から注ぐ暖かな日光が柔らかい掛け布団のようであるのに、寝ないようにするのは至難の技だ。
しかし、朝祇には秘技がある。
(黄龍〜)
『なんだ』
(眠い、付き合って)
『またか、勉学の才がありあまるのも問題だな』
(褒めんなって)
『皮肉という言葉を教えてやろう』
(仕方ないじゃん、眠いもんは眠いんだよ)
そう、黄龍と心の中で喋るのだ。それによって眠らずに意識は保ちつつ、会話によって眠気も覚める。
中学時代から続けていて、黄龍は毎度不満を述べながら付き合ってくれる。神様かよ、と涙を流さずにはいられない。
廉造は素直に羨ましそうにし、勝呂と子猫丸には呆れられた。悪知恵が働くことへの呆れだろう。利口と言って欲しい。
(そういや、調子はどう?力の吸収は進んでる?)
『それなりにな。ここは人が多くてやりやすい』
ふと、黄龍の弱まった力を回復させるための試みについて確認してみた。学園に来てから、周囲の人や動植物からほんの少しずつ力を吸いとっているのだが、どうやら街の大きさもあってそれなりに好調なようだ。
吸いとられた側はまったく気付かない程度の軽微なものだが、塵も積もれば山となる。
『だが、そもそも端午が近いこともあって何とも言えぬ。はっきりとした効果の実態は不透明だ』
(それもあるよな…にしても、もう一年か)
まさに一年前の端午の節句に、夢の中で黄龍と出会い、憑依された。あれから廉造と交際し、決断して東京に戻っただけでなく祓魔師を目指すことになるとは、まさか思いもよらなかった。
きっかけをくれた黄龍には、本当に感謝している。
(これからもよろしくしてくれると嬉しい)
『……あぁ』
***
数日後の祓魔塾。
悪魔薬学の時間になり、授業の終わりの方で小テストが返される。雪男は一人一人名前を呼んで返していき、逐一コメントしている。律儀な人だなぁ、なんて漠残と思った。
「一ノ瀬君」
「はい」
名前を呼ばれ教卓付近に行けば、雪男はニッコリと微笑んだ。柔和な笑顔は女子受けが良さそうだ。
「文句なしですね。よく頑張りました」
「あざまーす」
結果は100点。勝呂のように、特進の重い課題と経典や聖典の暗記と並走して祓魔塾の勉強をしているわけではないため、当然ではある。
続く子猫丸は8割、廉造も7割ほどの得点だ。
「杜山さん」
「は、はいぃ!!」
そして、どこか期待した面持ちのしえみだったが、「サンチョさん」「ポマエリーさん」などのオリジナル名称で減点を食らっていた。1人だけ着物ということもあり、どんな子なのか皆目見当がつかない不思議な生徒だった。
さらに続く燐は相当酷かったらしい。雪男は米神をひくつかせ呻くように「頭が痛いよ…」と苦言を呈した。
それについで呼ばれた勝呂は、後ろから見ていて分かっていたことだが、そんな燐に苛立っていた。
燐と擦れ違い様に睨み付ける。
「2点か、狙うても取られへんわ」
「はぁ?」
あ、2点なんだ。意図せずして知ってしまった悪魔の子の点数に微妙な気持ちになった。
「女とチャラチャラしとるからや、胸糞悪い」
「あ?そういうお前はどーなんだよ」
「フンッ、」
しえみと仲良さげなことを言っているのだろう。確かに、2人は隣同士で座っているし、塾に入る前からの知り合いのようだった。何もあおらなくても、とは思うだけだ。ちなみに燐は98点の数字に期待通りのリアクションをしている。
煽られた燐と煽った勝呂は直に揉め出して、廉造と子猫丸は慌てて止めにいった。一瞬朝祇も行くか迷ったが、そんなに人数はいらないだろう。
虚しく鳴り渡るチャイムの音を聞いて、前の騒ぎには目もくれずに教科書を片付けた。