祓魔塾始動−5
悪魔薬学が終わると、少し長めの休憩時間のあとに体育実技の授業が入っていた。本当なら5分前くらいに着替えても間に合うのだが、例によって真面目な勝呂は早くから更衣室へ行くらしい。自然と朝祇や廉造たちもついていくことになる。
これまた古めかしい更衣室に入り、体育用にそれぞれが用意した服に指定の紫のジャージを合わせる。
「あっ」
そこで、朝祇はジャージの上着だけ忘れてきたことに気付く。白いシャツは着ているが、この時期はまだ寒い。地下の競技場はなおさらだ。
それに、全員が魔障を受けている今、この体の模様が目立つのは避けたかった。
「どうかしたん?」
動きが止まった朝祇を廉造が隣から窺う。朝祇はポリポリと頬をかきながら答えた。
「や、ジャージ忘れてさ」
「そうなん?俺今日は七分丈やから使わへんのやけど、俺の使う?」
「マジ?助かる」
廉造は水色の七分丈のシャツを着ているため、上着を使わないようだ。ごそごそと自分の袋からジャージを取りだし、朝祇に渡してくれた。
ありがたくそれを借りて袖を通すが、ちゃんと着ても指先しか袖口から出なかった。そんなに体格が違っただろうか、と少し落ち込むが、廉造はニッコリと笑う。
「普段の白いカーディガンで萌え袖なんもかいらしいけど、彼ジャーで萌え袖なんは至高やね!」
「何言ってんだ」
かぁいいわ〜とデレデレしながら抱きついてくる廉造をいなしていると、勝呂がため息をついた。
「なにイチャついてんねん」
「ええやないですか坊、誰もおらんのですしちょっとくらい」
「そうだぞ、それに俺はさっき100点だったんだから文句ないだろ」
なんだかんだ朝祇も反論すれば、相手にするだけ無駄だと判断したらしい、また深いため息を吐かれた。禿げるぞ、とは言わないでおく。
「着替えたんなら行くで」
苦労性なところがある生真面目不良である勝呂に、ほんの少しだけ、申し訳程度に同情したが、さりげなく廉造の背中に手を回している自分の言えたことではないだろう。
***
競技場へ向かうためいったん中庭の1つに出ると、噴水のところで何やらいい感じになっている2人がいた。燐としえみだ。
廉造と朝祇のことがあった直後にこれはまずい。
「おーおー、昼間っからイチャコライチャコラ」
「っ!誰がだ!!」
「世界有数の祓魔術の塾に女連れ込むとは、余裕ですなぁ!」
やはりというべきか、勝呂は煽り始めた。燐は簡単に火がつき、勝呂に怒鳴り返す。
「そんなんじゃねぇよ!!」
「じゃあなんや、オトモダチか?え?」
「友達じゃ…!…ねぇ…っ」
出会って数日だが、この燐という少年がずいぶん分かりやすいのは理解していた。今も、少し顔を赤らめて視線を逸らすあたり照れ隠しなのだろうが、天然なところがあるらしいしえみには伝わっていないのか、しえみは落ち込んだように視線を下げた。
勝呂もすぐ悟ったようで、バカにしたように「なるほどな」と笑う。それに燐もキレた。
「バカにしやがって!だいたい、てめぇこそダッセえんだよ!いつも取り巻き連れやがって!」
「なっ…!なんやと!?」
一瞬の沈黙。そして、隣で廉造が吹き出した。笑うところではないだろう、と軽く蹴っておく。
「なに笑うてんねん!!」
「いや、あの子の言う通りやな思て」
思っても出さないのが大人というものだ。しかしまぁ、確かに燐の言うように、勝呂はボス猿のようにも見えなくもなかった。