千年の都へ−3
翌朝、朝祇は鏡を見て愕然とした。
鎖骨あたりから肩、腕など上半身、さらに下半身までも、昨日までなかった入れ墨のようなものがあったのだ。
石鹸で擦っても消えはしない。
その模様は、心臓部分に黒い五芒星、背中に大きく、韓国の国旗の真ん中にあるような丸い勾玉を合わせたような黒の図形が中心となっている。そこから、赤、青、黄、白、黒色の線が曲線を描きながら全身に巡っていた。
ところどころ、兌、坤、填、思、慮、考、信という漢字が散りばめられ、左腕には二の腕から手首にかけて、「前四勾陳土神家在辰主戦闘諍訟凶将」と書かれている。
そして、左の脇腹の上辺りに土という文字が丸に囲まれていた。
「なんだこの…ヤクザとか勘違い外国人とかの入れ墨みたいなやつ…」
「あら、どうかしたの?」
そこにひょっこり顔を覗かせたのは、母親である。
「あ、母さん、これ…」
「あら、筋肉ついてきたわね」
「じゃなくて、この模様は…」
「模様?」
どうやら、母親には見えていないらしい。こんなにも目立つものが見えている反応ではなかった。
なんでもない、と返してから、理由を探る。母親がいなくなったあと、あの夢を思い出した。
「まさか…でもあれは、夢…」
『夢ではないぞ』
「なっ…!?」
突然、頭の中に声が響いた。
それは、まさに昨晩聞いた声。
『厳密には夢だが、幻ではない』
「…嘘、だろ…」
『…まあ良い。とにかく、力を使いたければ願え。そうすれば、思い通りに働く。何ができるかは、自ずと分かるようになっている。力を使う度、周囲から対価の力を取り込ませてもらうぞ』
「…あ、あぁ…」
とりあえず頷いておく。
何が起きているのかまったく分からなかったが、まずはこれが現実であることを、声の主の言うことを実践して確かめる必要がある。
『その模様は普通は見えぬ』
「普通は、ねぇ…」
もう何が普通なのかも、分からなかった。
***
四条通を歩きながら、朝祇は悶々と今朝のことを考えていた。こうして日差しの照らす町中を歩けば、あんな非日常的なことはあり得ないことだと思えてくる。
それでも、左の袖を捲れば謎の漢字が見えている。
これが現実だと受け止めるには、何らかの力とやらを行使しなければならない。
ふと、今日は朝祇にちょっかいをかけるやつらが何を企んでいるのか知りたくなった。事前に分かれば、対処が可能だ。
すると、それが声の主の力でできることに気付いた。察した、という方が近いか。
「できるだろ」
『お安いご用だ。何も言わずとも、お主がやろうと思えばやれる』
言われるがまま、朝祇は奴等の考えに意識を向ける。途端に、首謀者たちの内心が自分のことのように頭に再生された。
(今日はトイレの個室に押し込めて、上から雑巾洗った水ぶっかけたろ)
(体育着をカッターでボロボロにしてまえ)
(給食で足滑らせてスープぶっかけてまおうか)
「とことん昔ながらだな…」
流れてきた情報にツッコミを入れたが、ふと、自分がとんでもないことをできたのに気付いた。完全に、透視のような力だ。
「ま、まだそれが実現しないと分かんないし…」
信じられない気持ちになって、そう言い聞かせて早足で歩き始めた。
その背後では、犬を連れていた女性が頭を押さえて踞り、その犬はぱたりと苦しそうに倒れてしまっていたことに気付かず。