強くなる−2
それから数日、思いの外すぐに結果発表の日がやって来た。塾の教室でメフィストが口頭で述べることになっている。雪男も他の講師たちも笑うだけでこの件については何も触れなかった。
「あー、どないなんやろ…緊張すんねんな」
「廉造…緊張してないだろ」
授業が終わり帰る準備をしながら、メフィストがやって来るのを待つ。みんなそわそわとしているが、廉造はヘラヘラとそんなことしか言わなかった。
まず、スパイをやらせている廉造を落とすはずがないし、その実力もメフィストは心得ている。燐にしてもそうだ。優秀な勝呂、子猫丸、出雲も然り。
そもそも万年人手不足の騎士團が落とすとも思えなかった。それくらい、廉造も把握しているはず。
「あはは、朝祇はお見通しやんな」
「お前のことならな」
「まーたそういうかわええこと言う…」
朝祇も廉造も愛情表現はストレートなので、すぐこういう惚気た話になってしまう。一方で、お互い表情をちょっとやそっとじゃ変えられないことを少し悔しく思っている。
そんな会話をしている内に、メフィストが教室に入ってきた。雪男も一緒だ。
ついに来た、と生徒たちに緊張が走る。
「ご機嫌よう皆さん!いよいよ候補生認定試験の結果発表です!」
相変わらず奇抜な格好をしたメフィストは、やはりいつものように大仰な仕草をとる。アイン、ツヴァイ、トライと自分でカウントするところが何だかおかしい。
「無事!全員候補生昇格おめでとうございまーす!!」
「よっしゃぁああ!!」
「良かったぁ…!」
そして、メフィストは両手を広げて全員の合格を告げた。燐や勝呂は手を上げて喜び、しえみや出雲はほっと胸を撫で下ろしている。廉造と朝祇も、一応それなりのリアクションはしておいた。
「それでは、皆さんの候補生昇格を祝して…」
しかし、メフィストがそんなことを言い始めると、思わず廉造と朝祇も身を乗り出した。勝呂や燐、子猫丸も同様だ。まさか、何か奢ってくれるんだろうか。
「もんじゃをご馳走します」
「ええええ!もんじゃかよぉ!!」
だが、結局奢ってくれるのはもんじゃらしい。思わず注目してしまったのが恥ずかしい。廉造や勝呂、燐はあからさまに萎えていた。釣られてしまって恥ずかしい、と思っているのがバレたのか、メフィストは朝祇を見てニヤリとした。普通にむかつく。
***
そんなこんなで、無事に候補生昇格が認められた塾生の面々は、メフィストに連れられて学園の昔懐かしい駄菓子屋にやって来た。こんなテイストの店がこの学園にあるとは思っていなかったが、いつの間にか浴衣姿になっているメフィストを見て、こいつの趣味かと納得した。
駄菓子屋はもんじゃ屋を併設しており、奥の座敷に鉄板が嵌め込まれた机があった。そこに生徒たちが座り、それぞれもんじゃを注文する。
廉造の隣に座った朝祇の正面には、出雲と宝が並ぶ。隣のテーブルには勝呂と子猫丸、燐としえみがいる。山田は来ていなかった。
「そういや、俺もんじゃってあんま食べたことないな」
「え〜、朝祇東京生まれやろ?」
「もんじゃなんて食ってんのは下町の江戸っ子くらいだって。俺は郊外出身だから、そういう下町文化は馴染みないぞ。普通にお好み焼きのが好き」
「たいていお好み焼きともんじゃって選べるしなぁ。ここみたいに、もんじゃ専門なんてのは珍しいんやなぁ」
「おう。京都府民だって、和菓子よりケーキ食うだろ」
「おん、和菓子高いねん」
そんなお国事情を話しながらも、廉造はさくさく焼いていく。こういうときに手際がよいのは廉造らしいと思う。
「…てか、あんたたちどういう関係なわけ?」
すると、出雲が突然そんなことを聞いていた。思わず廉造と2人でギクリと固まる。
「京都の降魔術の名家で、揃って京都からこっちに来てるくせに、一人だけ標準語じゃない」
あぁ、そういうことか、と朝祇は内心安堵する。バレたのかと思った。
「俺は東京に住んでたんだけど、親が離婚して、母親の実家がある京都に引っ越したんだ。その実家が降魔術の名家だったなんてのは、この前知ったばっかだけど」
「へぇ、そうなの」
あっさりと会話は終わった。聞いてきたわりに一切掘り下げようとしない。その一方で、離婚というセンシティブな話であってもまったく態度を変えなかった。こういうサバサバしたところは嫌いじゃない。
それに、合宿の最後で、ちゃんといいやつだと分かった。実は、しえみに礼を言っているところを目撃してしまったのだ。いい子なんだろうな、と思った。