強くなる−3
候補生に昇格した週の日曜日。この日、朝祇は以前約束した雪男との武具屋見学をすることになっていた。竜騎士になるために必要な、武器への理解と自分に合うものを探すためだ。
昼過ぎ、待ち合わせしている旧男子寮へ向かう。一応制服で、とのことだったためワイシャツにネクタイ姿で袖を捲り、タイピンを下の方で止めた。
玄関の日影で暑さをしのいでいると、その扉が開いて雪男が姿を現した。
「お待たせしました」
「こんにちは、今日はよろしくお願いします」
雪男は祓魔師姿で、黒いコートを着ていた。見るからに暑そうだ。一旦出てきた雪男は、扉を閉めてから、鍵を差し込む。
そして、もう一度扉を開いた。
「いらっしゃーい」
やはり直通のものがあるらしい、玄関の扉の先は直接武具屋に繋がっていた。
中に入ると、教室ほどの広さの空間に棚が並び、壁も棚もぎっしりと銃火器で埋まっていた。その荘厳で厳めしい様に息を飲んだ。
レジにはやはり厳つい壮年の男が気のよい笑顔で立っている。
「おお、奥村君じゃないか」
「お世話になってます。こちらは、候補生になったばかりで竜騎士志望の塾生です」
「一ノ瀬朝祇といいます」
「どうもいらっしゃい。俺は斎藤といんだ、将来贔屓にしてくれ」
がはは、と笑う斎藤は、見た目に違わず豪快な性格のようだ。雪男は苦笑して、近くにあった棚を指差す。
「これが、騎士團から配布されている一般的な拳銃、ベレッタM84シリーズです」
そこにあるとは、よくドラマで目にするような普通の拳銃だった。ひとつひとつの違いは見た目ではあまりわからない。
「ベレッタはイタリアの会社なので、ヴァチカンから世界に広く支給されるんです。各国の警察や、日本でも麻薬捜査官などが使用している一般的な型ですね」
「へぇ…持ってみてもいいですか?」
「もちろん。この84FSが最も主流です」
雪男から進められ、84FSとやらを持ってみる。途端に、ずしりとした重さが手にかかる。まさに、人を殺せる重さといったところか。
「う、わ…やっぱ重い…」
持てないわけでも、持ち上げられないわけでもないが、地味に負担がかかる重さだ。
「軽めのとかって…」
「軽ければ軽いほど、拳銃は扱いにくくなります。撃ったときの衝撃は軽い銃の方が大きくなりますから」
「なるほど、重さはある程度必要なんですね」
その後もライフルやショットガンなども見て回ったが、拳銃以上に重く、扱いや効力がトリッキーだった。普通は拳銃を使うというのも頷ける。
この日本支部御用達の武具屋は、欧州だけでなくメキシコやフィリピンから裏ルートを使い、アメリカやロシアのものも揃えているそうで、実に様々なものを試せた。インドからニュージランドまで、東アジア36億人を管轄する各騎士團支部の中でも中枢にあるのが日本支部であることもあり、ここにない銃は騎士團では使えないものだけだという。
「なんか…剣と同じくらい扱いづらそうなものばっかでした」
「大抵の人はそうですよ。拳銃で精一杯ですし、それで十分です。僕だって拳銃だけですから」
「…もし、銃そのもののオリジナリティではないところで強みを作るとしたら」
しかし、朝祇は普通で満足する気はなかった。自分の力で臨機応変に戦える柔軟さを担保するには、普通のレベルではいられない。
「たとえば、俺が召還できる麒麟の力を銃に憑依させるとかってできますか?そうすれば、銃弾がなくても圧縮した使い魔の力を撃って悪魔に当てられる。体力の減りも緩和されてなおかつ使い魔を直接召還できないような状況下でも対応できますよね」
つまり、虚無界にいる麒麟たちの力だけを銃に憑依させて、それを銃弾として打ち出すのだ。直接呼び出すより力を使わないはず。
「…理論上は可能です。しかし、別の物体に意図的に悪魔やその力を憑依させるのは降魔術に属し、手騎士二種という特殊な称号が必要です。非常に難易度が高く、騎士團全体でも限られた人しか行えません」
「やり方はあるんですか?」
「その辺りは僕も専門外で…斎藤さん、」
雪男はさすがにそんな込み入ったところは専門外だったらしく、斎藤を呼んだ。レジからすぐに斎藤は2人のところへやって来た。
「手騎士二種による銃火器への降魔は、確立された方法などはあるんですか?」
「うっすら聞いた話だと、その手騎士のセンスらしい。召還のための詠唱がそれぞれなように、そのあたりの方法もそれぞれなんだそうだ」
結局ふわっとしているらしい。最初に手騎士のことを授業でやったときもそうだった。