強くなる−6
そして、ついに7月4日がやって来た。学園と塾の授業が終わり、そわそわとする廉造に見ていられなくなった勝呂と子猫丸はその足で出掛けていった。誕生日くらいは配慮してくれたらしい。そういう優しさは、中学のときから変わらない。
2人だけで寮に戻るなり、玄関で廉造は小さくキスをかましてくる。
「…どうした?」
「いやぁ、なんか我慢できひんかった」
「はは、ちょっと待ってて」
そのまま荷物を置き、2人で手を洗ってからリビングに入る。明かりをつけて、朝祇はキッチンに移った。ネイビーのエプロンをつけ、昨晩仕込んでおいたものを使って取り掛かる。
廉造は、対面式のカウンターにくっつくテーブルに座り、肘をついてそれを眺める。寮がまるで家のような設備を誇るため、もはや、
「なぁんか、結婚したみたいやんなぁ」
そう、結婚して同居し始めたかのような感覚になった。朝祇も同じことを感じていたから、くすぐったく思う。
「それな、俺も思った。てか、先にシャワーしてこいよ」
「あ〜いつか『ご飯にする?お風呂にする?』のやつやって欲しなあ」
「お前ほんとベタなの好きだよな。いつかやってやるから早くシャワーしろダーリン」
「その言葉忘れへんからなハニー」
バカっぽい会話を軽く楽しんで、廉造はシャワーを浴びにいく。なんだか本当に同棲しているようで、ちょっとドキドキした。初めて、この豪華すぎる寮とそれを造ったメフィストに感謝する。
***
30分ほどして、廉造が戻ってきた。その頃にはほぼ作り終えていて、机に並べ始めたところだった。特に何事もなく、つつがなく作れたと思う。
燐ほど綺麗ではないけれど、ポーチドエッグを載せたチーズインハンバーグやシーザーサラダ、カボチャの冷製スープとバターライスと華やかにできた。
「おお〜!!超うまそうやん!!」
「案外見た目だけかもよ」
「朝祇は頑張れば頑張るほど不安そうにするねんな、よう分かっとるよ」
「…チッ、ほんとお見通しだよな」
「朝祇のことならな〜」
前にも同じような会話をした覚えがある。意趣返しだろう。アイスティーを最後に出して準備を終え、テーブルにつく。廉造もいそいそと座った。
「食べてええ?」
「おー」
「ほな、いただきます〜」
「いただきます」
手を合わせてナイフとフォークを手に取った廉造の動向をこっそり見つめる。反応はどうだろうか。気になりすぎて食べ始められない。
廉造はハンバーグを器用に真ん中で2つに割る。途端に、肉汁とともにチーズが溶け出して皿に広がる。良かった、肉汁の閉じ込め方やチーズの溶け方の調整は燐と何回も練習した。というか、燐はすごすぎだった。
「ふぉおおお!!なんやこれすっげぇぇえやん!!」
テンションが上がる廉造は豪快にハンバーグを口に含む。口の端にちょっとケチャップがついている。
「〜〜!!うまぁ!!レストランかいな!!」
「奥村の料理食ったときも同じこと思った。師匠はすげえぞ」
「んー、でも今食べとるのは朝祇が作ってくれたやつやもん。ホンマ、美味しいで」
にこり、と笑う廉造は、本当に朝祇のことをお見通しだった。もらえて嬉しい言葉を正確に分かっている。
「…そっか、良かった。廉造、」
「ん〜?」
朝祇は立ち上がり、廉造の口の端についたケチャップを親指で拭って、指をぺろりと舐めた。ポカンとする表情が子供っぽくて、思わずくすりと笑う。
「誕生日おめでとう」
「っ!!あ〜〜!!ホンマ!!朝祇ホンマかわええ!!ありがとぉ!!」
瞬間、顔を赤らめた廉造に、朝祇は珍しく表情を変えられたことへの満足感で一杯になった。不馴れながら頑張った甲斐があった。
―――愛の力ですね。
雪男の言葉がちらついて、あぁ、本当にな、と思う。ちょっと気恥ずかしいけれど、悪い気分ではなかった。