海の悪魔−2


廉造は隣を歩く朝祇を横目で観察する。先程まで海水に浸かっていたため、全身濡れて日差しに照らされ光っている。パーカーから覗く腕や首もと、ハーフパンツから出る白い生足には、やはりカラフルな曲線や漢字が入れ墨のように見えている。肌の白さを際立たせるそれは、いつ見ても朝祇にさらなる色気を与えている。

そんな妖艶な朝祇だが、同い年らしく海にははしゃいでいたようで。さっきも、海に飛び込んで泳ぐ姿はどことなくウキウキとしていたし、廉造を意味もなくアホと罵って呼んで来たのもそうだ。テンションが上がっているのである。
珍しい様子に、廉造は思わず空を仰ぎ見た。尊い…と語彙力を著しく下げて天地に感謝したものだ。

それを押さえて朝祇に呼ばれるまま海に入り、衝動のままイタズラしてやれば、普段から開発していただけあってとてもいい反応をしてくれた。あ、これ止まらへんかも、と思った瞬間に朝祇の容赦ない拳が入って、正直助かった。可愛すぎて致してしまうところだった。

それからしばらく泳いでから陸に上がり、2人は海の家へと向かっている。実は、一時間ほど泳いでから残りの時間は朝祇の訓練に付き合うことになっていた。朝祇は済まなさそうにしていたが、廉造とて一緒にいられれば良い。それに、と廉造は周りのお姉さん方を見渡す。
豊満な肢体を見ても、廉造の心には何の感慨も浮かばない。 ただの女性。しかし、隣の朝祇は別格に綺麗に見える。つまり、もはや廉造はそこら辺の女性より朝祇にしか欲情しなくなっていたのだ。付き合い始めた頃よりも、どんどんどんどん朝祇への気持ちは膨らむ一方で、まさに朝祇しか見えていない。まさかそこまで自分がなるなんて思ってもみなかった廉造だったが、まったく悪い気はしなかった。

海の家へと戻ってきた2人は、軽く燐たちに挨拶をしてから、着替えて待ち合わせていた椿と合流する。やたら南国のアロハっぽい服装になった姿は見るに耐えないものだったが、椿はそういう男だ。2人はドン引きしながらも、促されて山へと入った。


「山奥に行くんですか?」

「そうだよ。銃声が響かないようにネ」


2人は私服に戻っていたが、椿はこんなアロハシャツでいいのだろうか。一抹の不安は抱いたが、揃って「まあいいか」と内心結論付けている。
ある程度森を進むと、10メートル四方ほどで開いた場所が現れる。さらに周りには、何やら怪しげな気配。


「ちょうどこの辺りにはゴブリンがいてね。定期的に祓って人里に降りないようにしているんだが、ちょうどその時期なんだ。お手伝いがてら、試してみるといい」


いざというときは椿が対応するため、椿は拳銃を構える。だが、グールに比べればゴブリンなど何てことない。朝祇は頷いて、グロック18Cというらしい拳銃を構えた。
そして、銃身に左手を被せ、口を開く。


「冀うは朱夏が烈火」


手を外すと、銃身には炎駒の二字が赤く光りながら浮かんだ。廉造は初めて見る姿に目を惹かれた。本人から話に聞いていた、手騎士二種の物体への降魔術だ。朝祇はふわふわと現れたゴブリンに銃口を向ける。数は10体ほどだ。


「撃ちます」

「やってごらん」


椿の許可も得て、いよいよ朝祇はトリガーを引いた。
途端、銃身は勢いよく目にも止まらぬ速さで後ろへとスライドし、銃口からは炎の塊が小さく大量に打ち出された。銃口を横へ動かしていけば、炎の銃弾はゴブリンたちを次々と貫き燃え上がらせた。


「……へっ……」

その爆音と空に立ち上る赤い炎を、そして的を見詰める朝祇の真剣な眼差しを見て、廉造は変な声を漏らした。


(え、えぇ〜〜!?何なんこれ、こんなんチートやんけ!!)


愕然とする廉造をよそに、落ち着いて発砲する朝祇はなかなか様になっているのだが、どうしても銃口を維持するのが難しいらしい。ゴブリンに当たらず、背後の木々を一気に燃やすことも多かった。


「冀うは玄冬が豪水」


撃ち終えた朝祇は、矢継ぎ早に銃身に左手を載せて、再び唱える。すると、今度は角端という字が黒く浮かんだ。
そうしてもう一度朝祇は発砲する。次々と現れるゴブリンに着弾する度に水が弾けてゴブリンを吹き飛ばす。焼けるような反応が垣間見えるため、聖水のような効果もあるのだろう。朝祇はついでに燃え上がる木々を消火していた。
さらにゴブリンが現れると、撃つのをやめて朝祇は左手を銃身に重ねる。


「冀うは白秋が剛金」


銃身には白く索冥と浮かび、銃口からは鋭く金属の弾がゴブリンを貫き、さらに背後の木々を切断して地面を抉った。黒く炭化した木々がバキバキと音を立てて倒れていく。
ゴブリンも恐れてほとんどいなくなってしまったが、4、5体ほど最後に向かってくる。


「はぁ…っ、冀うは青春が錦木」


最後に朝祇はそう言って銃身から手を離す。そこには、青緑色に聳弧と浮かんでいる。
打ち出された銃弾は、ゴブリンに当たるなり枝を一気に広げて拘束し、そのまま締め付けて消滅させた。外したものは地面に当たり、倒れた木々から新たな緑が芽生えていく。

こうして、ものの5分でゴブリンを50体近く掃討した。


「銃口さえ安定させられれば、なにも文句はない!素晴らしいよ!」


椿は拍手をして朝祇を讃えた。ありがとうございます、と疲れたように言う朝祇に、椿は持ち方や構え方を伝授する。



廉造は、そんな朝祇を見て心に強く誓った。


(ぜっっっったい、敵に回したらあかん)


喧嘩売らないようにしよう、と、荒れ果てた空き地を見て廉造は遠い目になるしかなかった。


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