縮まる距離−2
早速勉強会をしよう、ということになったのは、その日の放課後だった。どうやら、勝呂たちも一緒らしい。
掃除が終わって落ち着いた教室、ほとんどの生徒がいなくなると、前の扉から二人の男子が入ってくる。
廉造は朝祇の前の席に座り、「坊こっち来はってください!」と手招きした。
二人が朝祇たちのところまで来ると、廉造は二人と朝祇を仲介して紹介した。
「坊、子猫さん、同じクラスで最近仲良うしとる一ノ瀬朝祇君や。東京出身で、えらい勉強できるらしいで」
「あんまハードル上がること言うな…一ノ瀬だ、よろしく」
「勝呂竜士や。このアホが世話になっとる」
「三輪子猫丸いいます、よろしゅう。志摩さんがご迷惑かけとりません?」
「二人してひどない!?」
勝呂は180近くある長身で、ガタイもいい。目付きが悪いが、案外普通そうだ。子猫丸は小さく、坊主頭が愛らしい。廉造の扱いは心得ている二人だ。
「志摩ってどんくらい成績やべえの?」
二人が近くの席に座ってから、まずは廉造の現状を把握しておこうと聞いてみた。すると、勝呂は顔を歪ませてため息をついた。
「下から三分の一、いうたところやな。じわじわ上がっとるけど、正十字学園に行くには全然足りてへん」
「あー、目標が目標だもんなぁ…二人も正十字学園志望?」
3人の関係から、なんとなくそう推測した。廉造がここにいるのは、勝呂との立場関係があるからだ。高校も関係しているはず。
「おん。俺と子猫丸は安全圏ねやけどな」
「すげえ、今から安全圏なら安心だな」
さすがといったところか、二人はつつがなくできているようだ。
となると問題は廉造のみ。家のことを考えると、死ぬ気でやらねばならないだろう。
「うぅ〜…、一ノ瀬せんせ、ほな、頼んますわ…」
「…あんま期待はすんなよ」
***
翌日も、放課後に勉強会をすることになった。ただ、勝呂と子猫丸は来ない。寺で用事があるそうだ。
廉造は基本的なところから授業を聞いていなかったようで、問題になると太刀打ちできなかった。まずは覚えろ、と昨日指示したので、今日は大丈夫だろう。
「こんな量の公式覚えるとか鬼やぁ…」
「たかが13個だろ」
「13個もや!あかん、自分のバカさが響く…」
教室には誰もおらず、声が響いた。部活は厳しいところはこの時期もやっているようで、声が窓の外のグラウンドから聞こえていた。
その窓からは初夏の風が入り込み、眠気を誘われる。窓際はこういうところが良いところでもあり、悪いところでもある。ウトウトとしだした廉造には確実に良くない。
「寝るなよ」
「んぁ〜…、分かっとるよ…ここで寝たら正十字学園に行かれへん…」
志望としているところが高すぎて、あまり低すぎるわけでもない廉造の成績が悪く見えているのは事実だ。そこまでして行きたいんだろうか、と一瞬思ったが、そもそも廉造の志望理由は勝呂たちが行くからであろう。
「…そんなに、正十字学園行きたいわけ?」
「……んー、そういうわけやないね。一ノ瀬君の思っとる通りやと思うよ」
その言い回しに少し驚く。朝祇が廉造の志望理由を悟っていることを分かっているようだ。そういうところは鋭いらしい。