転機と決意−3


「うまぁ!!なんやこれ!!」


出来上がったカレーをみんなで輪になって食べ始めた途端、勝呂の驚愕の声が響いた。
味付けはすべて燐が行い、朝祇はたき火という火力を鑑みての加熱調整のみ行った。やはり燐の腕は確かだ。師匠と仰いだだけある。


「これはどこに嫁がせても恥ずかしない味やね…」

「奥村君料理お上手なんですね!」

「すごい燐!美味しい!!」

「奥村君の唯一生産的な特技です」


口々に誉められる燐は照れている。慣れていないのだろう。燐が目立つようにあまりでしゃばらなくて良かったと思う。最後の雪男の言葉は褒めながらけなすという高度なものだが。


「ま、朝祇は俺の嫁やけど」


すると、廉造がこっそり耳打ちしてきた。何を言うのかと思えばそんなことで、そんなことなのだが、不意打ちはずるいというものだ。照れ隠しに小突くと笑われる。こんなしょうもないやり取りに、やっぱり好きだ、なんて改めて思ってしまうのだった。



***


夕食が終わり、いよいよ訓練の開始時刻となった。たき火を囲んで円になって座り、雪男がその前に立つ。シュラは隣でビールを飲んだくれていた。


「では、これから訓練内容を説明します」

「肝試し肝試し〜」

「っておい!その女18や言うてなかったか!?」

シュラは上機嫌にビールを煽る。勝呂はようやくそこでそれを指摘した。シュラの講師としての赴任挨拶のとき、自身を18歳と言っていた。そんなわけあるか、と朝祇は思ったが、同い年の雪男が立派に講師をしていることはある程度の信憑性となっていた。


「18?なにをバカなことを…この人は今年でにじゅうろ、」


スコーン、と空き缶が雪男の頭にヒットした。シュラは「手が滑った」と悪びれない。その態度に、雪男は眼鏡のブリッジを震わせながら押し上げた。


「おい…仕事をしろよ……はっ、」

「にゃはは〜怒った怒った〜」


雪男は咳払いをして仕切り直す。だが、はっきりと雪男の怒れる姿を見てしまった。内心にそれを留めつつ、塾生たちも改めて聞く姿勢になった。


「皆さんには、この森のどこかにある提灯に火をつけてもらいます。提灯はここから半径500メートル以内のどこかに置かれています。合宿期間中の3日以内に火をつけて、消さずに戻ってこれた者に任務への参加資格を与えます。ただし、提灯は3つ。つまり、三枠しかありません」


直径1キロの円形の空間に3つだけ置かれた提灯を、8人で奪い合う。暗い森林でその条件は、簡単なものではない。
雪男は続いて荷物として用意されたショルダーバッグの内容を説明するが、3日分の食料や日用品、コンパスなど本格的だ。
さらに、リタイア用の花火まであった。支給されたマッチは1本のため、花火を使えば自然と提灯は持ってこれない。


説明が終わると、各自荷物のチェックをする。持参した道具なども詰められる。燐はその間にシュラと何やら離れた場所で話していた。

シュラは不穏分子の捜査のためにヴァチカンから派遣された監察官。それが、メフィストに呼び出された夜に保留にすると言っていた。何があったのかは分からないが、今も忠告をしているんだろう。青い炎を出して、シュラが報告しなければならないような事態を起こさないように。

話し終えた燐が戻ってくると、その辛気臭い表情に勝呂が煽りをいれた。それは以前のようなものではなく、奮起させるようなもの。勝呂なりの心配なのだろう。


「坊、この訓練、完全に奪い合うように仕組まれてますね…けど、そうしたら最後」

「全員自滅だわ」


荷物整理を終えた塾生たちは立ち上がり、互いに探り合う。子猫丸と出雲がいう通り、戦いを始めれば全員戻ってこれないだろう。
というか、朝祇はそもそも本当に奪い合いなのかどうかというところから疑問だった。前の旧男子寮での合宿であれだけ協調性を重視していたわりに、今回はそれを乱すように仕向けるのだろうか。


「この訓練、お互い自分のことだけ考えるんが正解やな。助け合いもなしや」

「もともと枠は3つしかないんだもの、むしろせいせいするわ」

「恨みっこなしや、いうことですね」


しかし、勝呂たちはそうまとまった。確かに、互いに干渉しないのが無難なのかもしれない。
それでも、果たして本当にそうなのか、と思いながら、朝祇はスタート位置についた。


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