転機と決意−9


森の中を走りながら、勝呂たちはショルダーバッグから花火とマッチを取りだし、あとは放り投げた。朝祇は荷物を置いてきてしまったので持ち合わせていない。その代わり、しっかりと拳銃を構えた。

森を抜けると、岩場にたどり着いた。恐らく、正確には先程の爆発で森の一部が地面ごと吹き飛ばされたところだろう。中央に向かって大きな岩が軽い丘のように盛り上がるその上で、まさにアマイモンがしえみの目に向かって鋭い爪をかざしていた。

廉造はすぐにマッチをつけて花火に点火し、アマイモンの近くを狙う。そして、ヒュン!という音とともに花火が打ち出され、アマイモンの側を横切った。それによってアマイモンは手を下ろし、こちらを睥睨する。

朝祇は銃を構え、勝呂と子猫丸もマッチをつけて臨戦態勢だ。


「俺らは蚊帳の外か!!」

「っ、やめろ!!」


倒れた燐は苦しそうに叫ぶ。アマイモンはこちらに向き直り、つまらなさそうに見下ろしていた。


「いいから、逃げろ!!」

「奥村君!もし隙ができたら逃げるんや!」

「お、俺は杜山さんを助けに来ただけやで!」


なぜか廉造はそう付け加えた。アマイモンは興味なさげだが、朝祇と目が合うとぴくりと眉を動かした。


「この前も邪魔をした人間ですね。また邪魔をするんですか」


やはり覚えられていたか。朝祇はますます不利になっていくなかで、どうやってしえみを離すか考えた。朝祇の実力では、しえみに当てずにこの距離からアマイモンだけを狙える自信はなかった。連射によって照準を誤魔化しているだけなのだ。

すると、子猫丸のマッチの火が花火に意図せずして燃え移ってしまった。子猫丸は慌てるが、花火は直ぐ様飛び出してしまう。向かった先はアマイモン。
こちらからは一瞬、しえみに直撃したように見えた。


「しもた!」

「杜山さんになんてことを!」


しかし、幸いにもしえみには当たっていなかった。当たったのは、アマイモンの頭のトンガリ。髪なのだろう、花火が当たったせいでパーマのようになっていた。


「…ぶふ、ブロッコリー…」


こんなときにも関わらず笑い出す廉造。思わず勝呂と白けた目を送ってしまうが、アマイモンの纏う空気が冷たくなったのを感じてそちらを見やる。
その次の瞬間、アマイモンは一瞬で廉造の正面に姿を現し、廉造を1発で蹴り飛ばした。廉造は30メートルほど後方の木まで吹っ飛ばされ、地面に倒れ伏す。


「っ、廉造っ!」

『構えろ!!』


咄嗟に駆け寄ろうとすると、今度はアマイモンがこちらに蹴りを繰り出す。当たる直前に黄龍が足元の岩を壁のようにして切り出して突出させるが、アマイモンはいとも簡単にそれを砕いて朝祇を吹き飛ばした。
腕を前に交錯させ衝撃に備えたが意味はなく、蹴りが腕ごと腹に衝撃を与え息がつまる。何かを感じる暇もなく風を切り、辺りの風景が何も見えなくなったと思うと、背中が固い岩に叩き付けられ、内蔵が飛び出るような吐き気と衝撃に襲われた。


『大丈夫か!朝祇!!』

「ぐっ…!はぁっ、…!」


息ができない。腹も背中も焼けるような熱さを感じるのは、痛みの向こう側ということか。
目は空いているのに視界の端が暗い。その中で、勝呂を庇う子猫丸の腕をアマイモンが一突きで折ってしまったのが見えた。悲痛な悲鳴を上げて子猫丸がしゃがみこむと、今度は勝呂の首をアマイモンは掴んで持ち上げた。

助けないと、と思うが、腕が持ち上がらない。折れているわけではないが、ジンジンとした熱っぽい痛みで言うことを聞かないのだ。銃を握ったままなのが驚きなほどである。
もし黄龍が壁を作って軽減してくれていなければ、全身折れていただろう。


首を閉められた勝呂は、苦しさに顔を歪めながらも燐を見据える。その瞳は確かに強い意思を秘めていた。


「お前なんぞに…用はないわ…俺が腹立ててんのは、てめえや、奥村…!」


勝呂はずっと胸に抱えていたのであろうことを口に出していく。自分勝手かと思えば人助けをし、できないように見せてすごい働きをする。そんな燐が謎なのだと。


「何の話ですか?ボクは、無視されるの、嫌いだなぁ…!!」


アマイモンはさらに力を籠めて勝呂の首を閉める。それに、燐はついに立ち上がった。


「やめろぉ!!」


燐は、倶利伽羅の布を地面に落として、柄と鞘に両手をかける。まさか、剣を抜くつもりだろうか。そうすれば、炎が解き放たれ燐を包む。サタンの象徴たる青い炎が。


「兄さん!!これは罠だ、誘いに乗るな!!」


そこへ、追い付いたらしい雪男が叫ぶ。そうだ、これはすべてメフィストが仕組んだこと。ここでみんなに正体を明かす必要などないのだ。


「…っ、奥村!だめだ…!!」


辛うじて朝祇も声を振り絞るが、燐の表情は変わらない。


「悪い、雪男、一ノ瀬も。俺、やっぱウソついたり誤魔化したりするの、向いてねえわ…だから俺は…俺も、優しいことのために、力を使いたい!!」


そして、燐は剣を引き抜く。

その途端、青い炎がその体と剣を包み込んだ。


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