転機と決意−8


シュラは籠城に打って出るつもりなのか様子見なのか、座って余裕の表情だ。異常な事態にも関わらずの貫禄はさすがといえる。
だが、事態は急変した。


「杜山さん?どこ行くん?」


廉造の声がしてそちらを見ると、なんとしえみが魔法円の外に向かって歩き出していたのだ。もうすでにその端は近い。


「おいおいおい、誰か止めろ!!」


シュラは途端に慌てて追い掛けるが、間に合わなかった。しえみが魔法円を出ると同時にアマイモンが再び姿を現し、しえみを抱き抱える。


「しえみ!!…うおっ、」


燐も駆け出すが、シュラは刀をその前に降り下ろして制止した。


「おい、その娘に何をした」

「虫豸の雌に卵を産み付けてもらいました。孵化してから神経に寄生するまで時間がかかりましたが…これで晴れてこの女はボクのものだ」


地の王の眷属でもある虫豸を寄生させることで、アマイモンはしえみを操っているのだ。人質によって籠城を崩す作戦なのだろう。
アマイモンはしえみを抱えたまま、森の奥へと飛んでいった。燐は即座に追いかける。


「待て!!このトンガリ!!!」

「お前が待て!!」


さらにシュラもそれを追いかける。すぐに燐に追いつくなり、燐へ迫ろうとしていたベヒモスを叩ききる。そして、そのままベヒモスと戦闘を始めた。燐にシュラが何やら託すと、燐は振り返りもせずに走り出してしまう。


「奥村ぁ!!…またあいつは…!」


あっという間に暗闇に消えた燐に、勝呂は慌てて怒鳴るが返答はない。


「お前たち!死んでも障壁から出るなよ!!」


シュラもそう言うと森の中へと消えていく。後には呆然とした塾生たちだけが残された。雪男は花火を打ち上げた場所を見に行っているため不在である。つまり、ここには障壁以外に塾生を守ってくれるものはない。

いったいどうするべきか、考えてあぐねていると、突然爆発音が響いた。森の奥からで、何かが吹き飛ばされて大量の木々や岩を破壊しながら森を移動している。空中に投げ出された人影は、間違いがなければ燐だ。
さらにアマイモンが燐を地面へと垂直に突き落とし、地面を砕き木々を吹き飛ばす爆音とともに地面が激しく揺れた。土煙と枝や葉が空中に舞い、こちらにまで葉が落ちてくる。


その様子を見た勝呂は、泣く子も黙るほどの悪人面で米神をひくつかせた。


「あんのクソがぁぁああっ!!!」


そして、肩を怒らせながら憤怒の表情で歩き出した。その方向は真っ直ぐ障壁の外。制止の声も聞かずに歩いていく。
慌てて廉造はその肩を掴んだ。


「ちょお坊!冷静になって、ね…?」

「…俺は今猛烈に怒っとるんや…冷静なんぞ犬にでも食わせとけ…!!」


勝呂はそう言うと廉造の手を振りほどいて円の外へ出てしまった。廉造は一瞬迷った表情を浮かべてから、錫杖を握り締めて歩き出す。


「もぉ〜…なんてお人や!!」

「ちょ、廉造!」

「朝祇はここおってな」


朝祇は咄嗟に廉造の腕を掴んだ。しかし、廉造は苦笑してそれを解く。それに、朝祇も少しカチンときた。


「ナメんな。…お前の決めたことなら、隣に立ち続けるって言っただろ」


役に立てるかは甚だ疑問だ。だが、そう言う問題ではない。これは矜持であり、かつてからの決意でもある。
廉造は虚を突かれた顔をしてから、ふっと笑って頷いた。

そうして2人も歩き出すと、子猫丸も意を決したようについてくる。出雲がまだ制止しようとしてくれていたが、答えなかった。


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