いざ米国−13



「じゃあ、まずは構えてみて」

「はい、」


凄まじい轟音が響く中、ライトニングは近くに寄って指示する。なんとかその声を拾い、銃を構えた。


「普通の構え方だねぇ。それでもいいけど、少し重心を下げてみよう」


言われるままにグリップを持つ位置をずらす。不馴れなポジションに少し違和感を覚えた。


「あとは下半身。 もっと腰を落として、体全体で発砲に耐える」


そう言いながらライトニングは朝祇の腰を掴み、ぐっと下に下ろした。膝を曲げて従うと、背後の近い位置にいるライトニングがくすりと笑う。


「ほんと細いね、腰」

「それ関係あります!?」

「おお〜怒った怒った」


ついに少しだけ怒りに任せて言えば、ライトニングは悪びれずに飄々と笑った。格が違いすぎてもう怒りも持続しない。色んなものを籠めたため息を吐いて、銃に意識を戻した。


「よし、そんで、銃はこのくらいの高さで…そう、」


すると今度は、ライトニングが右手で朝祇の手を背後から掴み、軽く持ち上げた。左手は腰に回されたままだったが、そこから腹に回される。完全に後ろから抱き締められているような格好だ。


「…、あの、」

「ん〜?」

「…その体制、意味あります?」

「あるある!四大騎士のなんやなんやがあるよ!」

「他の四大騎士に謝るべきじゃないですかねぇ…!」

「みんなごめ〜ん」


ライトニングは空に向かって、特に声を大きくすることなく謝った。まさに掴み所のない人だ、と思うしかなかった。もはや怒りを通り越して笑いが出る。


「…はは、なんかもう、いいです」

「おっ、笑った〜。やっぱ可愛いね」

「どうせガキんちょですよ」

「そういう意味じゃないけど…まぁいいや、よし、じゃあ撃ってみよう」


ようやくライトニングは体を離した。姿勢をキープして、炎駒を狙う。
ちょうど聳弧による蔦が動きを封じているところだった。弾は着弾すると雷を生じさせる魔法弾だ。


しっかりと狙いを定め、腰と足に力を入れ、そして発砲した。
衝撃によってバランスを崩すようなこともなく、腕もぶれない。発砲の衝撃は今まで腕を上下させていたのだが、それが腕から肩にかけて水平に伝わり、足腰によって支えられた感覚だ。

そして銃弾はしっかりと炎駒に当たり、バチっと稲妻が走った。


『いってぇ!こんの野郎…!』


炎駒はぶちギレたようだが、角端が思いきり水を頭からぶっかけ、白い湯気が立ち上る。


「あー…一回行ってきます」

「はいよ」


一度ライトニングに断りを入れてから、索冥の頭突き(超合金)によって地面に落下した炎駒に駆け寄る。
麒麟だけが朝祇の側に近寄り、角端たちは後ろで何があってもいいように控えた。


「…大丈夫?」

『うるせぇ!自分で戦えよ!』

「だって俺人間だし。タイマンは死んじゃうって」

『炎駒、分かってるでしょ?僕たちを従えている時点で、主様は弱くない』

『人間自体がよわっちいんだよ!』


炎駒はそう怒鳴ると、光を纏って変身した。人型になったのだ。
燃えるような深紅の髪は、後ろだけ肩近くまであるのか、ひとつに括られている。もみあげは両側とも麒麟のように顎くらいまで垂れている。その目付きは非常に鋭く、なんとなく不良っぽい顔つきだった。


「人の体はあまりにも脆弱だ。そもそもそんなやつらに従うこと自体おかしいだろ」

「まぁ、それは炎駒の言う通りだよ。確かに人は弱い」


炎駒の言うことはもっともだ。この地球の動物の中で最弱と言ってもいい。


「だから人は、知恵を使って道具を作り、文明を開いて、歴史を作った。弱い俺は、炎駒との会話を誘導して、麒麟たちに頼った。俺はね、そうやって自身の不可能を理解し、克服するために努力できることこそが、人類の最も優れた点だと思うんだ」

『主様はそうやって、昨日私を打ち負かしたのです』

「角端が…?」


朝祇の言葉に虚を突かれたようにした炎駒は、続く角端の言葉に動揺する。


「俺はね、炎駒。守りたいものがたくさんあるんだ。そのために力を貸してくれる麒麟たちのことだって守りたい。そのためには、強くならないといけない。でも俺の強さは、君たちがいないと成立しないんだ。だから、頼む」


朝祇は深く頭を下げた。隣の麒麟や、正面の炎駒も驚いているのが伝わる。


「力を貸して欲しい」

「…っ、あーもー分かったよ!従わねえと麒麟と角端に殺されそうだしな!…あんたの使役を拝することを誓う」

「ほんと!?ありがとう!!」


渋々、といったように言った炎駒に、思わず顔を上げて笑顔になる。炎駒は少したじろいだが、呆れたように笑ってくれた。


***


その後、2日間に渡って銃の練習と麒麟たちを使った戦い方の訓練を行った。ライトニングは笑いながらとんでもない命令をしてくるため、みっちり扱かれた。
いよいよ6日目の疲労困憊、というところで、ライトニングは生活していた仮眠室でとんでもないことを告げた。


「さぁ一ノ瀬君、できる限りのことはできた。早速、実践がてら帰国しておいで」

「えっ、6日ですよね、まだ…」

「メフィストから、日本支部の候補生に対して任務が下ったんだ」

「ってか、メフィストさんたちは一体…!?」


そういえば、メフィストと燐はヴァチカンへ連行されたのではなかったか。尋問はどうなってしまったのだろう。


「奥村燐、サタンの息子は半年後の祓魔師認定試験に合格するのを条件に保留処分、メフィストも事実上お咎めなし」

「そう、なんですか…」


良かったのかどうかは分からない。ただ、猶予があるのは安心できた。ライトニングはそれに一瞬笑みを深めてから、パン、と手を叩く。


「とにかく!メフィストから下った任務は、"不浄王の右目"の警護を担当する増援隊のお手伝いだってさ」

「不浄王…まさか、」

「このまま敵によって復活させられれば、このグローバル化した世界だ、何億という人間が死ぬだろうね」


不浄王。明陀宗の開祖が封印した忌まわしき悪魔。右目が何なのかは分からないが、とんでもないことになっているのは確かだ。


「鍵は正十字学園に繋げてある。まぁ、またいつか会うことがあれば」

「…お世話になりました。本当に、ありがとうございます」

「いいっていいって!じゃあ、また」


ライトニングが扉を開くと、そこは変わらず炎天下で湿気の高い東京の街。
最後にもう一度頭を下げてから、朝祇は扉の向こうへと足を踏み出した。


94/187
prev next
back
表紙に戻る