眩い強さ−8


線路に立ち往生してしまっている車体は、鉄道会社と騎士團、そして警察が回収するらしい。車内の白骨化遺体を警察が引き取り、車体は鉄道会社の牽引車で近くの操車場に送る。
雪男はその両者への報告や指示をして、騎士團からの指示を伝達することになっている。しえみも残るということで一般人である千秋は燐が背負って送ってくれるということだ。

線路脇の非常通路を、燐に背負われて進む。海からの風が柔く吹き付けていた。


「あー…何から話せばいいんだろーな」

「…じゃあまず、悪魔のことから」

「おう、そうだな」


とりあえずは先程のことを聞こうと訊ねてみると、分かりにくいながらも燐が教えてくれた。
悪魔がどういったものか、というところから、あの幽霊列車について。そして、魔障。


「悪魔から傷つけられると、魔障っつーモン負うことになるんだ。魔障を受けると、悪魔が見えるようになる」

「俺も?」

「あぁ。幽霊列車に入ると、だんだん魂抜かれるんだと。生気吸いとられた状態だから、魔障に入るんじゃねーかな」

「だから、あの客が見てたのか……」


乗車したときは普通に見えていたのは、魔障を受けていなかったからだ。幽霊列車の胃袋である車内に入り、魔障を受けたことで、車内の真の姿に気付いた。


「じゃあ…燐のあの炎とか、尻尾も?」

「……そう」


言いづらそうにする燐。話したくないことなのかもしれない。
いつもなら、ここでそれを恐れて何も言わなかった。しかし今は違う。

燐のことを知りたい、理解したい。だから、踏み込みたい。まだ人に踏み込むのは恐いけれど、燐なら、怖くても近寄るだけ近寄りたいと思うのだ。


「……燐、俺、聞きたい。燐のこと。嫌ならそれでいいけど、でも俺は、燐なら近付きたいって思うんだ」

「千秋……」

「今まで人に踏み込もうなんてしなかったし、そんなの煩わしいって思ってた。でも、燐のことは、知りたいんだ」


背負われているからその顔は見えにくい。けれど、肩越しに見える横顔は驚いていた。


「そ、っか……分かった。話す」


燐は一瞬考えたあと、話し始めた。それは、思っていたことよりも、遥かに重い話だった。


今から16年前、悪魔のトップであるサタンが世界中の祓魔師を殺害した。その象徴である青い炎をとって、それを青い夜というらしい。
青い夜を起こした恐怖の象徴であり人類の敵であるサタン。その落し子が、燐だった。
雪男とは双子ながら、二卵性だったことや雪男の虚弱が幸いし、サタンの炎を継いでいるのは燐だけだ。それを燐自身、この春に知ったばかりなのだという。サタンは奥村兄弟を保護していた前聖騎士、藤本獅郎に憑依し、藤本は燐を守って命を落とした。

以来、燐はサタンを"ぶん殴る"ため、最強の祓魔師になることを、サタンの血と炎を継いでいながら聖騎士になることを目指しているのだ。


「こんなんバレたら殺されかねねえからさ。塾の奴らも、さっきのしえみも、このことは知らねぇんだ」

「そう、なんだ……」

「…恐いよな、サタンの息子だなんてよ。不気味だろ」


自嘲気味に笑う燐。確かに驚きはしたが、そんな感情は沸かない。

千秋はいてもたってもいられず、燐の背中を無理矢理降りた。


「おいっ、」

「いって……」


着地した際に右足に痛みが走るが気にしない。振り返る燐に、そのまま正面から抱き着いた。


「うわ、千秋…っ!」

「……怖くないし、不気味でも何でもない」


足が痛むので、抱き着きながら燐に体重をかける。燐はまったく動じず受け止めて、おずおずと抱き締める。その肩に顎を乗せて、背中に手を回した。


「燐は、今までずっとサタンの息子だったし、これからもそうだ。何も変わらない。だから、サタンの息子だって知ったからって、今この瞬間から燐が何か変わるわけじゃない」

「そう、だけど……」

「燐が変わるわけじゃないんだから、怖がる必要なんてないよ」

「っ、」


燐はびくりと肩を揺らす。恐いだろ、なんて言いながら、怖がっているのは燐の方だった。自信がないのも燐だ。サタンの息子であると打ち明けることは、それだけ燐を怯えさせるのである。


「むしろ、俺は、燐の不器用だけど誰よりも優しくて、他人思いで、真っ直ぐ強くいられるところが好きだ」


まず人のことを考えてしまう燐は、底抜けに優しくて、サタンの息子だなんて言いながら、どんな人間よりも人間らしくある。そして、しっかりと通った軸は、燐の強さだ。眩しいほどの強さが、千秋を変えてくれた。


「そんな燐が燐であることの理由のひとつがサタンの息子なんだったら、俺はそれすら好きだと思えるよ」

「っ!お、まえ……なんつー…!」


燐は息を飲むと、ぎゅっと思いきり抱き締めてきた。筋肉質な腕に抱き締められ、少し痛いくらいだが、何より燐の気持ちが伝わった。


「俺……千秋と会えて良かった」

「それは俺もだよ」


その声は震えていたが、千秋は気にせず背中を柔らかく叩いた。これも友情なのか、と聞かれたら分からない。きっと、燐も千秋も、友情にしては強すぎるような気もしていたし、何よりも強い友情なような気もした。

ただ、今はそんな曖昧なもので良かった。互いに、互いが心から大事だと思っていることが、まずは1番大事なのだ。






それから、千秋は雪男の報告で興味を抱いたメフィストに竜騎士と手騎士の才能を見初められ、祓魔塾に入塾することになった。あの頭に聖句が浮かんだ現象は手騎士の特徴らしい。
弓矢を用いた竜騎士という独特なスタイルで祓魔師を目指すことになり、それにあたって部活はやめた。

心機一転、千秋は燐とともに、同じ道を歩むことを決意したのだった。


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