眩い強さ−7
くらり、と視界が霞み、千秋は しゃがみこんだ。何やら上から燐が言っているのが聞こえるが、あまり耳に入ってこない。
ただ視線だけは悪魔の方へやると、少女がこちらの車両へ飛び乗るのと入れ違いに、燐が青い炎を纏って、剣を悪魔に叩き込んだ。しかも腰についているのは、尻尾だろうか。
一体どういうことか、と思う暇もなく、先頭車両は爆散し、塵も残さず消えた。それと同時に燐は千秋がいる連結部へと着地した。
「っとぉ…!」
「り、燐……?」
間近でちらつく炎、尖った耳、揺れる尻尾。燐は千秋と目が合うと、ぴしりと動きを止めた。
「燐!?」
上から少女の声がする。とりあえず千秋は、火のついていない部分を押して目を覚まさせる。
「ってあぶねぇだろ!」
「分かったからとりあえず返事してやりなよ」
「お、おう……ここ!大丈夫だから!」
2両目以降の車両はどんどん減速しており、もう大丈夫だろうとわかる。ボウを片付けるため車内に戻ると、燐は車体の上の人と何やら話していた。
すべてをケースにしまう頃には、完全に列車は止まった。燐はどんな仕掛けなのか炎をもう纏っていない。
その燐に呼ばれ、車体の上から2人が降りてくる。
「兄さん、この人は……」
「あぁ、俺の友達!」
「1年D組の二宮千秋っていいます」
自己紹介すると、背の高い男性はにこやかに笑う。
「僕は1年特進Aの奥村雪男です。双子の兄がお世話になってます」
「…………は?」
つまり、この背の高いメガネのイケメンは燐と双子でしかも弟だということだ。まさか冗談にも思えず、顔がひきつるのが分かった。
「わ、私は杜山しえみです!皆と同い年だよ!」
「あ、そうなんだ。塾の人?」
「そう!」
どこか緊張した様子のしえみは、燐と同じ塾に通うのだという。祓魔師の制服を着ている雪男は正式な祓魔師として、燐としえみは見習いとして来ていたのだろう。
「いやぁ……にしても、助かりました。なんかよく分かんないけど、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると、雪男はいえいえ、と朗らかに返してくれた。とて爽やかだ。
「でも、一歩間違えれば彼らと同じ運命でしたよ」
しかし雪男はそう言って後ろを指差す。そこには、改めて白骨化した遺体がシートに座っているのが見えた。ゾッとして、思わず燐の制服の裾を握ってしまった。
「これは幽霊列車と言って、列車に憑依した悪魔です。乗客を虚無界……有り体に言えばあの世に連れていってしまうんです」
「えっ……」
悪魔は悪魔でも、まさかあの世行きの列車型悪魔だったとは。今一度、とんでもないことに巻き込まれたのだと実感する。
「魔障も受けてしまっているようですから、これから悪魔を見ることが……できるように……」
流暢に話していた雪男だったが、だんだんと顔を強張らせていく。そして、油の差していない機械のように、燐を振り向いた。
「ま、まさか兄さん……」
「……わり、見られた」
雪男は倒れそうになっていたが、何とか持ち直す。そしてふるふると震えた。
「……どうするんだ兄さん……!」
「んー……とりあえずさ、こいつ足怪我してっから、俺が背負って帰る。で、そんときに色々話すのでいいか?」
「……はぁ、分かった。余計なことは喋るなよ」
何やらまとまったようで、雪男はしえみを伴ってさきに列車を降りた。当然、千秋は歩けないため、燐がおんぶしてくれるらしい。
背中におぶさり、燐は危なげなく立ち上がる。その温もりが伝わってきて、もう夜も深夜を回っていることもあって眠くなりそうだった。