カフェの街で2−1
カフェ店員パロ
柔造×主
まさかこうなるとは、と千秋はサイフォンの様子を見ながら思う。
カウンターの向こうで、客から注文を取る長身の男は、やけにサロンエプロンが様になっていた。
2ヶ月ほど前に客としてやって来た志摩柔造という男は、やりたいことと違うことを過酷な環境でやらされる職場に悩み、ついに倒れた。そうしてこの千秋が経営するカフェを訪れたところ、両親を亡くして一人で切り盛りしている状況と、柔造自身も家の重圧とやりたいこととの間で葛藤を抱えていたこととがマッチすると考えた。
そして、突然ともに経営しようと言い出したのである。
最初はいきなりのことに拒否したものの、どこか千秋自身も柔造にシンパシーを感じるところもあり、お互いに知ることから始めようと言った。
それから1ヶ月、柔造はカフェに通いつめ、千秋と個人的な関係を築いていった。
だんだんと千秋も絆されていくのを感じていたところで、ついに柔造は、なんと共同経営やら何やらをすっ飛ばして「結婚してくれへんか」と申し出てきたのである。何に1番驚いたかといえば、そんな突拍子もない提案を悪く思わなかった千秋自身だった。
運命、なんて言うと少し胡散臭いのだが、しかしそれが1番しっくりくるような気もする。
千秋は柔造とパートナーになることを決めると、正式に2人でこのカフェを営むことにした。合わせて千秋の実家には柔造と、弟である金造と廉造も移り住んだ。
弟たちは突然会社をやめて男と人生を共にすると決めカフェ経営を始めた柔造に、いたく驚いていたのだが、生き生きとして働く姿に理解を示してくれた。千秋にも好意的である。
まさか、この2ヶ月でここまで自分を取り巻く状況が変わるとは思っていなかった千秋は、もはや感慨深くすら感じる。
「千秋、パンケーキとブレンド2セットや」
「了解」
注文を持ってきた柔造は票をカウンターに置く。ブレンドコーヒーであれば人に出せるようになった柔造が準備を始める。
「はぁ〜、イケメン並ぶと絵になるわねぇ〜」
「ほんとねぇ」
すると、カウンター席のマダム2人がうっとりとしたように呟いた。カウンターの内側で並んで作業する千秋たちを見て、そう評しているらしい。
「はは、僕はともかく、柔造がホール入ってから売上伸びたのは事実ですね」
「いやぁ、千秋には負けますよって」
2人で苦笑しながら返すと、マダムたちは「やだぁ〜」と笑う。おばさまは軽く受け止めてくれるから楽だ。
しかし実際、柔造が入ってから売上は上がった。経営の勉強をしていた柔造による経営改革ももちろんあるのだが、男前な柔造が注文を取りに来るだけで女性客は色めき立つ。リピーターも倍増している。
千秋と違って体格も良いため、白いシャツを腕まくりし、黒いサロンエプロンを揺らす様は格好いいの一言に尽きる。惚れたフィルターを介さずともそう言えるだろう。
少し恥ずかしいことを考えてしまったとかぶりを振り、サイフォンとカップを載せて女性客のもとへ向かう。
テーブルにカップを置いてサイフォンからコーヒーを移せば、途端に濃厚な香りが立ち上った。
「うわぁ、いい匂い…!」
「ストーリー載せるね〜」
「熱いのでお気をつけください」
にこりとして言うと、2人組の女性客がキャッキャッとする。そこで1人が雑誌を取り出した。