カフェの街で2−2



「特集でこのお店見て、行きたいと思ってたんですよ〜!」

「そうそう!イケメンオーナーとイケメン店員が切り盛りするお洒落なカフェって!」


雑誌は記憶に新しい、今月頭にインタビューを受けたものだ。事前に製品版を送られて確認したときに、やたらイケメンが強調されていて苦笑した。前からこの手の取り上げられ方はよくあったのだが、柔造も働き始めてから拍車がかかった。
柔造は前の職場で雑貨のバイヤー職をしていたこともあり、店内の雑貨も以前より洗練されたように思う。

ネットのまとめ系やSNSでも、イケメンとお洒落、というワードで同様の取り上げられ方をしていた。
画像投稿SNSでは公式アカウントを設けており、ハッシュタグをつけてもらうことでの広告にもなっている。柔造はあえて千秋が写るように写真を撮っているため、今や千秋の顔はかなり広まっているようだ。


「あの、写真撮ってもらってもいいですか?」

「いいですよ」


色めく女性たちに手を差し出すと、きょとんとされる。こちらも一瞬呆けてしまうと、女性たちはクスリと笑った。


「やだ、一緒に撮りましょうって意味ですよぉ」

「うける〜」


まさかの一緒に、ということだったらしい。うわ恥ずかしい、と内心思いつつ、笑顔を保って了承した。
自撮りで撮る女性たちとフレームに収まってから、礼をしてカウンターに戻る。ブレンドコーヒーを出して戻ってきた柔造と合流した。
一通り店内は落ち着いて、柔造は千秋の隣で店内を見渡す。パンケーキをその横で作っていると、視線を感じた。


「どうかした?」

「いやぁ、ホンマうまそうやなって」

「そう?」


覗き込んでくる柔造に、千秋はふっくら焼けたパンケーキを皿に載せながら笑う。ホイップなどをトッピングして柔造に運ばせると、その間に半端に余った生地をさっと焼く。
戻ってきた柔造に、その焼けた小さな破片をフォークに刺して差し出した。


「ほら、」

「おっ、ええの?おーきに」


すると柔造はぱくり、と千秋の手から直接パンケーキを食べた。意図せずしてあーんした形である。
何やってんだ、と思っていると、店内に押し殺したような悲鳴が響いた。驚いて店内を見ると、女性客たちがどこか恍惚としてこちらを見つめていた。

見られた恥ずかしさが一気に沸き上がる。その一方で、柔造は気にした様子を見せずに「うまい」と頬笑む。


「仲がいいわねぇ」


例によって並大抵のことでは動じないマダムたちは、ニコニコとしながらそんな感想を告げる。それにさらに羞恥心が増したが、柔造はやはり気にしていなかった。
それどころか、千秋の肩を抱く。


「そうですやろ?俺ら仲ええんですよ、ホンマ」

「ちょっ…!」


蕩けるような笑みでそんなことを言う柔造に、ついに千秋は顔に血が上るのを感じる。ガン、と何人かの客がテーブルに頭を打ち付けているが大丈夫なのだろうか。
マダムたちは「いいわねぇ」と強かに笑った。


***


閉店後、千秋は皿を洗いながらぶつくさ文句を垂れた。当然、あんなこっ恥ずかしいことをしてきたことへのものである。
テーブルを拭いて回る柔造は悪びれない。


「別にええやん、気にしとる方が余計恥ずかしいで」

「ほぉ〜、まだ言うか」


暖簾に腕押し、まったく柔造は気にしていなかった。むしろ、テーブルをすべて拭き終わると怪しげな笑みを浮かべてこちらにやって来る。


「俺かてな、何もなしにあないなことせぇへんで」

「へ……」


意外な言葉に柔造を見上げると、カウンターの向こうから手を伸ばしてくる。皿と洗剤で手が塞がる千秋が無防備なのをいいことに、千秋の顎を掬って上向かせた。


「接客とはいえ、女の子と距離近すぎやろ、写真まで一緒に撮ってからに」

「え…いや、そんな、」


反論しようとしたときだった。
柔造はカウンター越しに身を乗り出すと、千秋の唇に自身のそれを重ねた。ちゅ、と可愛らしいリップ音をさせてから、柔造は軽く身を引いて至近距離で千秋の目を見つめる。


「俺、そないに寛容やないで。人並みに嫉妬するし、閉じ込めたいて思うんや。それでも、カフェで楽しそうにしとる千秋が1番かいらしいさかい、何もできひんねん。せやし、ちょっとくらい見せつけてもええやろ?」

「な…っ、柔造、」


悔しいほどに格好いい柔造が、そんなことをはっきりと言いながら頬笑むものだから、顔に熱が溜まるのは仕方ないことだと思う。
恥ずかしくも嬉しい言葉に、千秋は顔を俯かせて柔造の肩に置くようにして凭れた。


「…柔造も、よそ見しないでよ」

「そないな余裕あらへんわ」


快活に笑う柔造は確かに爽やかだったけれど、大人の男の色気もあった。コーヒーの香りの染み付いた白いシャツと合間って、勝てないな、と千秋は目を閉じたのだった。


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