誕生日−2


お金を払わなくて良かったんだろうか、というようなレベルで舌鼓を打ったあと、燐と千秋は燐たちが生活する部屋に行った。
志摩が貸してくれたDVDプレイヤーで映画を見るのだ。ちなみにアメリカの某ネズミ印のアニメだ。
燐の勉強机に備え付けられた椅子にプレイヤーを載せ、二人で燐のベッドに座って見る。千秋は燐の脚の間に座り、意外と逞しい上体にもたれ掛かった。燐は何も言わず受け入れ、千秋を抱き抱えるように前で手を組んだ。


「いいな、こんなロボットいたら」

「包まれてぇ〜」


白いヘルスケアロボットに夢中になっていたが、徐々に展開が進むにつれて言葉がなくなっていく。やがて、クライマックスになると二人分の鼻を啜る音が響いた。


「ずっ…もう大丈夫じゃねぇよぉ…!」

「ふっ、ぅ、ひっく、」


もはや嗚咽を漏らす千秋、涙声で口を挟む燐、とても理想的な視聴者であった。


ひとしきり心の汗を流したあと、燐は夕飯の支度にとりかかり、千秋は風呂に入らせてもらう。千秋が上がったあとに、今度は中華料理をやはり料金が発生しない違和感を感じながら食べ、食後に燐が風呂に入った。
丸1日こうやって穏やかに過ごせることはそうなく、忙しい毎日がただ過ぎ去っていく。楽しいな、という気持ちはもちろんあるが、それよりもこうして二人で過ごせる優しい時間に心が安らいだ。それは、燐が側にいてくれるからに他ならない。さらに今日は誕生日として、千秋のお願い(といっても映画を観たいなどの本当に細やかなことだが)を無条件に聞いてくれるし、「次はなにしたい?」と千秋にだけ聞いてくれる状況が嬉しかった。

幸せだ、と思う。気を使ってくれた雪男やクロの優しさや、祓魔塾メンバーが二人の関係を否定しないでいてくれることも。
燐も同じ気持ちだと嬉しい、そう考えながら、燐のベッドでうつらうつらと意識を揺らした。



「おーい、千秋、起きてるか?」

「起きてるよ」

「横失礼ずるぜー」


そこへ、燐が風呂と厨房の片付けから戻ってくる。手伝いはやんわりと断られてしまった。
ベッドに燐が潜り込んできて、千秋の頭を持ち上げる。されるがままの重い頭を今度は自分の二の腕に載せ、腕枕の完成だ。
目の前に迫った、シャツ越しにも軽く隆起しているのが分かる燐の胸板に、そっと擦り寄る。くす、と燐が笑う気配がして、そのまま抱き込まれた。

優しく、しかししっかりと両腕で千秋の上体をホールドされ、背中をあやすように柔らかく摩られる。
ふよふよと尻尾が伸びてくると、先端の柔らかい部分が千秋の頬を撫でた。それがくすぐったくて、刺激しないよう優しく尻尾を掴み、頬に軽く押し付ける。


「…なんかさ、俺、幸せだって思う」

「どーしたいきなり」


優しい優しい空間に、千秋はつい考えていたことを口にした。燐は優しく問い掛ける。


「こうやって、燐とゆっくりできて…この時間がずっと続いたらいいのにって」

「んー、まぁ、色々とあるだろーけど…俺もそう思うぜ。でも、俺はもっと千秋のこと、幸せにしてぇ」


燐はそう言って、千秋をぎゅっと抱き締める。尻尾はするりと離れたが、物理的な二人の距離は縮まった。


「バカ、燐…二人で幸せになんだよ」

「はは、そうだな」


だが、一方的に燐に甘やかされるつもりはない。千秋だって、燐のために生きて、燐とともにもっと大きな幸せを築きたい。


「千秋…誕生日、おめでと」

「ありがと、燐」


また次の年も、さらに次の年も。ずっとそう言い交わせられるようにありたい。そう改めて思った誕生日だった。


prev next
back
表紙に戻る