2進数のアイ−1


●近未来SFパロ
祓魔師ではないです。
研究員柔造×人工知能主



東京、立川駅前のカフェで、ビルとビルを繋ぐ連絡橋を行き交う人々を眺めながら、柔造はコーヒーを飲んでいた。
駅の2階にある改札と南北通路から直接繋がる連絡橋は、駅から周辺のビル群すべてを繋いでいる。新都心と呼ばれるようになった立川には、高さ200メートルの駅ビルをはじめ、200メートル級の超高層ビルが林立している。
その周りにもそれよりは低いビルが広い通りに沿って規則正しく並び、ビル街は市域いっぱいに広がる。
それを南北に突っ切るモノレールがゆっくりと進んでいく。

そんな街並みを見て、柔造はタメ息をひとつ。かつては郊外のちょっと栄えていただけのターミナルだった立川は、今やこの国の中心と言っても過言ではない。だというのに、故郷の京都はいまだに2000年代初頭の姿が残されている。

腕時計をタップすると、空中にホログラムの画面が映し出される。メイン画面からメール画面を開くために空中でホログラムに触れると、メール画面が開き、上司からメールが来ているのが分かった。

内容は、以前提出したプログラムの指摘についてだった。口答してくれるらしい。


「サイアス、30分後に向かうて返信しといてくれへん?」

『メールを送信いたしました』


腕時計から少し高めの青年の声が聞こえ、柔造は画面を閉じた。今日は休みやろ、とは言わずにコーヒーで飲み込んだ。


***


2038年、日本は第三次世界大戦の傷痕から立ち直り、安定した社会に戻っていた。その安定をもたらしたものこそ、科学技術の粋を凝らした人工知能だった。
社会管理型超人工知能、通称サイアス(SAIAS:Super Automatic Intelligence for Administration of Society)が誕生したのは2025年。
誕生後、特区に指定された立川市において都市実験が行われ、2027年に首都圏で、さらに2028年から関東地方と東北地方での運用が始まった。
やがて2029年から2031年にかけて第三次世界大戦が勃発し、日本も少なくない被害を受けた。社会が混乱したのを機に、SAIASの運用は残りの地域にも拡大し、日本全土が人工知能による行政管理を導入することになった。

SAIASの機能としては、マイナンバーを利用した国民生活のための行政機能を効率的に代行する。また、農業は完全に無人運転のトラクターなどによって無人化され、全国の農地の管理もSAIASが行い、運送業や運輸、貿易なども、無人運転で動くバスやトラックによって無人化され、SAIASが管理した。SAIASは主にそういった無人化されたものの管理や行政代行を行うものであり、SFでよくあるような国家の立法なども行うような支配型ではない。あくまで、ただの円滑管理システムに過ぎないのである。

人工知能、AIは2000年代からすでに実用化されており、2020年代はそれが飛躍的に向上した。スマートフォンのAIも各社ごとに競走していたが、日本ではSAIASにとって代わられた。スマートフォンの代わりに腕時計などのウェアラブル端末が主流となっており、それもSAIASによって動かせる。

このような一種の社会インフラとなったSAIASを開発し運営するのは、総務省AI庁という行政組織と独立行政法人SAIAS管理機構(OSM:Organization of SAIAS Management)、そして指定された企業である。

そして柔造は、京都大学を卒業後に大手電機メーカーの三葉電機に就職し、若くしてエリート研究員としてSAIASに関する部署へと栄転、そのまま三葉電機の代表としてOSMに出入りすることになった。
今もこうして、立川駅前にある三葉電機本社から少し離れた立飛にあるSAIASセンターへと向かっている。モノレールで行来するのにもすっかり慣れてしまったものだ。


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