本当はずっと−1
「二人で、ですか…」
「せや。ウチの金造の修行になる思うてな、君に頼みたいんや」
「分かりました…」
正十字騎士團京都出張所の所長、志摩八百造に言われてしまえばノーとは言えない。仕方なく、了承するしかなかった。
***
二宮・ヤズディ・千秋は中東出身の日本人だ。名前に現地の苗字を残しているが、血筋的にはその血はたったの四分の一。いわゆるクォーターというやつで、ちょっと堀が深い程度の顔立ちである。
正十字騎士團には15才から祓魔塾の候補生として所属しており、26才の今、上一級の祓魔師となった。称号は竜騎士と手騎士である。元は関東で任務にあたっていたが、異動によって関西へと移り、今回は京都出張所にヘルプで来ていた。
このようなことはよくあることで、千秋にとっても慣れたものだったが、ひとつだけ苦手なものがあった。
「志摩金造…」
そう、出張所所長の息子の一人であり、中二級祓魔師の志摩金造である。仏教系であり、騎士と詠唱騎士の称号を持っている。実は、千秋にとって苦手な相手だった。
年下の二十歳ながら、千秋に対して変に突っ掛かってくるのだ。金造の兄、柔造より年上である千秋にタメ口で、ことあるごとに歯向かってくる。経験から任務のときに指示を出すことは多いのだが、金造は大体従わないか舌打ちをしてから言うことを聞く。こうもあからさまなことをされたことがないため、扱いに困っているのだ。
今回は所長直々にお願いされてしまったし、二人というのは正直やりづらいことこの上ないが、致し方ない。
千秋はため息をついて、集合場所の岐阜県へと繋がる鍵を扉に差し込んだ。
「ちっ、来よったわ…」
「そりゃ任務だからな」
開けた先は山の中の倉庫で、埃臭いそこにはすでに金髪の男がいた。
志摩金造、千秋より5センチ近く背が高い生意気な後輩である。
仏教系特有の黒い法衣を身に纏い、背丈を越す錫杖を肩に担いでいる。
本日の任務は、この山で発生する若い男女を狙った暴行事件の調査だ。事情聴取の中で被害者たちは、一様に"おかしな"ことを言ったため、警察から正十字騎士團に依頼があったのだ。
二人で広大な山を探すのは大変だが、頼まれたからにはやるしかない。ストレスで禿げそうだ、と思いながら千秋は金造と山へ入った。
***
鳥の囀ずりや木々の揺れる音だけが響く森。時折タヌキやらキツネやら熊やらが現れるが、その都度無視や威嚇射撃で対応する。千秋は竜騎士として縦型のショットガンを所持しているため、銃弾は普通のものではないが熊くらいなら追い返せた。
しかし歩けど歩けど何ら不信な点は見つからない。警察のキープアウトの紐は多くあるが、有力な何かは見付からなかった。
「あー、ホンマつまらん任務やわぁ。せめて楽しいやつとやったら、こないな任務でも気ぃ楽なんやけどなー」
「悪かったな、つまらないやつで」
「そういうとこがつまらんねや、アホ。人生の底の浅さが知れるっちゅうもんや」
「分かったから探せ」
「ちっ!クソが…」
単調な任務に嫌気が差したのか、金造はネチネチと嫌味を言ってくるが、すべて受け流す。生憎、千秋は冗談を楽しむような余裕のある生活はしたことがなかったため、ユーモアなどのセンスはない。
だが、つまらないのは千秋も一緒だ。こんな森のなかで宝探しするよりも、敵に出てきてもらった方が楽だった。