本当はずっと−4


金造は、任務に帰ってからすぐに出張所の医務室にぶちこまれ、検査を受けた。しかし、結果は異常なし。当然だ、金造は正確に自身の身に起きたことを把握している。

あのとき、ダンタリオンに魔障を受けたのだが、それは愛を燃え上がらせる力だった。千秋は好きでもないのに好きにされてしまったと判断し、金造のためを思ってこうして医務室に行かせたわけだが、金造はすべて分かっている。
この愛を燃え上がらせる力は、元からその愛がなければ不可能だ。つまり、金造は有り体に言えば恋をしていたのだ。一目見たときから、ずっと、千秋に。

今まで、金造は千秋に対する一目惚れのような感情を否定してきた。そんな血迷ったことをしたくないという考えもあれば、叶わないと諦めていたこともあった。
そうして、嫌いなろうと千秋に嫌味を言い続けてきたが、千秋はその都度大人の対応をする。柔造より年上だが柔造より怒らないし家族の重圧もない。だから、これまで反抗らしい反抗をさせてもらえなかった金造の反抗の矛先にもなっていた。ようは、甘えていたのだ。

そんなことをしていたときに、ダンタリオンに魔障を受けた。金造の中で千秋への想いがさらに歯止めの効かないものとなり、もう自制できる範囲でなくなった。嫌味を言って傷付けることも、それを言う自分の方が傷付きそうでできない。つまりは、金造の中にあったストッパーをダンタリオンが外したのだ。
その結果、好きな子を苛めてしまう小学生のような振舞いはできなくなり、完全にふっ切れた。

そう決めてしまえばかなりスッキリして、存外悪くない。意気揚々と金造は千秋のところへ向かった。金造を診てくれた医工騎士から居場所は聞いてある。
出張所内に宛がわれた仮眠室にいるとのことで、真っ直ぐそこに向かった。


「おい、千秋おるか」

「っ!金造か…」

「入ってもええか」

「あぁ…」


金造は一応確認だけして、障子を開けて室内に入る。布団に座る千秋は、まだかなり疲れが見てとれた。神格級の悪魔を召喚したのだ、当然である。

布団の側にどかりと胡座をかき、千秋の顔を覗く。その端正な顔には、戸惑いがはっきり浮かんでいた。金造のあまりの態度の変化に困惑しているようだ。


「…医工騎士から、話は聞いたか」

「ダンタリオンの力のことやろ?聞いたし、魔障受けたときから気付いとったえ」

「悪かったな、好きでもない俺のことにベクトル向けるようなことにさせて…」

「謝る必要ないで、俺元から千秋のこと好きやったし」

「……は?」


千秋はポカンと金造を見詰める。かいらしな〜と思いながら、言おうとしていたことを口に出す。


「ホンマ堪忍な、ずぅっと千秋のこと好きやってんけど、好きになったらアカン思て、冷たい態度ばっかとっとった。せやけど、今回受けた魔障のおかげでその考え捨てられたんや。これからは正直に千秋のこと愛したろ、ってな」

「え…いや、……え?」


混乱している千秋の横に移動し、戦闘中からは考えられないような情けない目で見つめてくるのに内心で呻く。先程から可愛く見えて仕方ない。
そして、その細い肩を抱き、そっと自分に凭れさせた。少し抵抗したが、ぎゅっと強く抱き締めると大人しくなる。


「あんな、千秋。俺、前に聞いたことあんねん、千秋が昔経験したこと」

「……っ!」


ぴくり、と抱き締める体が揺れる。その体に残っているだろう跡を思い、優しく撫でた。

千秋は、正十字騎士團に入るまで中東で戦争に参加していた。させられていた、という方が正しい。少数派であるゾロアスター教の信徒で構成される小さな村で、戦前からそこで暮らす日系移民の子供として生まれた千秋は、戦火に巻き込まれ家族を失い、異教徒の子供として隷属的な扱いを受けていた。兵士として重火器を扱って戦う中で、任務に訪れていた正十字騎士團の祓魔師を間違って攻撃し、それをきっかけに交流を持って加入に至った。
千秋が竜騎士と手騎士の称号を持つのはそのためだ。

この話を聞いたのは、金造が戦う千秋の姿に一目惚れしてからすぐのこと。これ以上好きになるのはダメだと思う一方で、その計り知れない傷を癒してやりたいとも思ったのだ。


「俺は祓魔師としてはまだまだやし、今までぎょうさん傷付けてもうたけど、これからは千秋のこと、守りたいんや。せやから、千秋のこともっと知って、ずっと一緒におりたい」

「…俺、つまんないだろ、一緒にいても」


ちょっと拗ねたような言い方に、自分が言った暴言ながら可愛さのあまり悶えたくなった。普段の大人びた態度ではないことも、少しは金造に気を許してくれているようで嬉しい。


「一緒におれたら、幸せやって思う」

「…ばーか、今まで傷付いてなかったわけじゃないんだからな」

「堪忍なぁ…せやから埋め合わせさせたって?」

「……俺、守りたいとか言われたの初めてなんだけど。中東でも騎士団でも、最前線担当させられてたし」

「おん、俺が守ったる。それに、俺らで医工騎士以外は全部称号揃うで」

「攻撃型過ぎだろ」


ようやく、くす、と千秋が笑ってくれた。まだ千秋に心を開いてもらい、さらに同じ気持ちになってもらえるまで時間がかかるだろうけれど。
それでも、耳を赤くした千秋に、何がなんでも守ると誓う金造だった。


prev next
back
表紙に戻る