本当はずっと−3




「おい!大丈夫か!」


金造はごっそりと表情がなくなったかのように立ち竦んでいる。まるで人形のようだ。いつも表情豊かな金造がこんな無表情になっているのはゾッとする。


「おい、ほんとにお前大丈夫か!?」


肩を掴んで揺すると、ようやくこちらに視線を向けた。そこに何の色もない。


「……『永く生きた私からの節介だ、有り難く受けとれ若人よ』」

「っ!ダンタリオンか!」


その口から語られたのは、間違っても金造の口からは出てこないであろう高尚な言い回し。すぐにダンタリオンだと気付き、そこで思い出す。
ダンタリオンの能力は、学問に精通することではない。それもあるのだが、基本的な力は別にある。


それは、人の心を読み、操る力。金造は今、操られている。ダンタリオンが面白いと言ったのは金造の内心を覗き見たからだ。

そして、金造は突然座り込んだ。まるで糸が入れたように。慌てて千秋もしゃがんで金造の顔を覗き見る。


「おい、金造…」

「ぁ…なんや、これ…」

「戻ったか…チッ、一応確認するか」


ダンタリオンが干渉を続ける場合を想定し、もしものときにはその繋がりを断つために再び印章を出す。頬の傷に爪を立ててまた出血させ、それを紙に垂らした。


「アフラ・マズダよ、天則に従い第一に懇願する。我らに聖霊の恩典を授けよ、助力者たちを楽土に置きたもうことのできんがために」


唱え終わると同時に、空気中にふわりと半透明の男が現れる。氣の王の眷属、ゾロアスター教の人類を守護し聖霊を司る神、スプンタ・マンユである。


「はぁ…っ、こいつにダンタリオンの干渉はあるか」


スプンタ・マンユは金造の頭に手をかざし沈黙する。やがて、首を横に振った。どうやら大丈夫らしい。それならもう心配はない。後遺症の残るような魔障はダンタリオンは持っていない。
スプンタ・マンユを虚無界に帰し、千秋はがくり、と地に腕をついた。まずい、連続で3体の召喚は数年ぶりだ。頭が霞みがかったようにぐらぐらとする。


「…千秋、大丈夫か!?」


すると、ぼうっとしていた金造が突然千秋の肩を掴んで覗き込んできた。先程と逆だが、驚きすぎて思わず黙ってしまった。
なぜ名前を呼んだ?というか、なぜ心配している?


「血ぃ出とるやんけ…なんでこないな無理したんや、」

「…え……」


千秋の混乱は留まらない。今までの塩対応からは考えられないような豹変ぶりだ。これもダンタリオンの力か。


「かいらしい顔に傷つけんなや…あーくそ!なんで俺がいながらみすみす傷つけてんねや…!」

「いや…お前ほんとどうした…」

「俺はいつも通りやで!」


嘘だ。千秋は頭をフル回転させ、ダンタリオンの力を全力で思い出す。学問、心を読む、心を操る。


「あぁ…あと、人の秘密を暴く、幻覚を見せるのもあったな…でも幻覚ならスプンタ・マンユが気付くはず」


新たに思い出したこともあったが、決め手に欠ける。あとはなんだ、と考えを巡らせていると、金造は突然千秋を抱き込んだ。


「う、わっ!」

「この金造様が守ったるさかい、もう安心しい」


できるか!と思わず叫びそうになったが、座り込んだ千秋を抱き締める金造から伝わる温もりと心音に、不思議と思いとどめられた。
そして、ふと思い出す。ダンタリオンの最後の能力。


愛を燃え上がらせること。


とんでもないことになった、と千秋は辟易とせずにいられなかった。


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