Rock you !−3


通話を終えると、千秋は銃口を空に向けた。そして、魔法弾を撃ち出す前に詠唱する。


「光あれ」


そうして発砲すると、上空で光の玉となって弾けた。これで場所が分かったはずだ。あとは待つだけである。
しかしまた詠唱したため、力を使ってしまいぐらり、と視界が回った。


「うお、っと…大丈夫すか」

「…、大丈夫、ありがと」


傾いた上体を、金造が支えてくれた。不健康な千秋とは違い、しっかりとした腕に支えられる。
しばらく金造は無言だったが、やがてポツリと口を開いた。


「…寝不足ってか、体調ふりょーっすよね」

「まぁ…仕事でね」


日々生活していて、千秋を見ないことはないと言われるほど今をときめく存在だと謳われる。実際そうなのかもしれない。世間に飽きられる前に稼がねばならないのもまた事実。
そんなこと、芸能人でなくても誰でも分かる。

ふとそこで、「っくしゅん、」とくしゃみをしてしまった。初夏といえ、夜は冷え込む。
見かねたのか、金造は突然、千秋を支える腕を引いて抱き締めた。横向きに筋肉質な体躯に抱かれ、温もりに包まれる。突然のことに驚いて抵抗できなかった。


「な、にしてんの」

「寒いやろ、あっためたりますよって」


実際とても温かい。だが、年下の青年にここまでされるのは気が引けた。


「俺かてあったかいさかい、気にしはることやないっすよ」

「…そこまで言うなら、じゃあ、お言葉に甘えて」


そんな強く拒否することでもないだろう。事実互いに温かいし、遭難したときによく温め合うのは聞く話だ。
そう言い聞かせて享受していると、しばらくの無言のあと、金造は意を決したように言った。


「…モデルや俳優やなんやて、やる必要あるんすか。歌手やろ」

「……君には関係ないだろ」

「…やりたいことなんすか。ホンマに、千秋さんがやりたいって思ってはることなんすか」

「っ、」


本当にやりたいことなのか。
真っ直ぐに千秋の目を見て聞いてくる金造に、思わず言葉に詰まってしまった。
モデルや俳優、バラエティー番組。 果たして、やりたいと思って引き受けたのだろうか。よりメディアに露出することを期待する社会に、流されて引き受けたのではないか。正直、図星なところを突かれたと言わざるを得ない。
黙ってしまった千秋に、金造は「すんまへん、」と謝って、そして抱き締める力を強くする。


「…俺が1番好きな千秋さんの曲、実はメジャーデビュー前のやつなんすよ」

「…そんな昔の」

「まだ千秋さんが注目され始めたばっかんとき、そないに大きないハコで聴いたんす。あれ以来、ずっと好きやけど…最近のは、あんま聞かれへん」


最初はむっとしてしまった千秋だったが、だんだん聞いているうちに、金造の気持ちが分かってきた。そしてそれは、千秋自身も感じていたことで。
ちょうどドームツアーあたりまでだっただろうか、毎日が楽しくて、活発だったのは。あのあと爆発的に人気に火がついて、モデルなどの仕事を事務所に持ち掛けられた。
金造が先程言っていた、福岡でのツアー最終日なんかは、本当に楽しかった。目映い照明と熱狂するオーディエンス、無数に浮かぶサイリウム。そこには、音楽しかなかった。


「千秋さんは好きなことやってええんやないすかね。少なくとも俺は、好きなことやっとる千秋さんが好きや」

「…なんか、告白みたいだな」

「似たようなもんや」


こんな年下の、会ったばかりの青年に、好きにしていいと、そんな千秋が好きだと言ってもらえたことは、存外心を震わせた。それは、千秋の中の1番大切だった頃のことを知っていて、そこで好きになったと言ってくれる金造の言葉だったからなのだろう。
そうだ、考えてみれば、千秋のやっているロックは、本来反社会的な音楽として若者を奮起させてきたジャンルだ。社会の目を気にしているなど、それはロックではない。


「…ハッ、俺に告白なんざ100年はえーわ」

「…やっと素出しよった」


ニヤリとして言ってやれば、金造も同じようにニヤリと笑う。ロックミュージシャンは口が悪くてなんぼだ。


「お前相手に隠す必要もうねぇやって思ってな」

「そっちのが好きやで」

「うっせえ。いいか、1ヶ月以内にお前のために最高にロックな曲作ってやる。せいぜいちびらねぇこったな」


人さし指と小指を立ててがす、と金造の胸を突けば、金造は目を見開いた。


「え、俺のために作ってくれはるんすか?」

「おう、覚悟しとけ。作曲以外の仕事断ってやろ」

「…っ!うれしいっすマジで!!こないなことなるなんて…、」

「あ?おめぇが気付かせたんだろ」

「あー、ホンマ好き、千秋さん大好きや…」


犬だったら確実に尻尾を振っていた。それくらい金造は目を輝かせて抱き着いてくる。というか、金髪なのもあって、ゴールデンレトリバーみたいに見えてきた。思わず頭を撫でる。普通ならこんなことしないが、だんだんと金造の温もりで眠気が強くなってきたことがそうさせた。


「おまえ犬っぽい」

「千秋さんのなら喜んで」

「うっせえ駄犬……つか眠い……」

「寝てもろてええっすよ、俺が責任もって連れて帰るんで」


駄犬呼ばわりでもこの忠犬ぶりである。口が悪い千秋を気にせず受け入れてくれたこともあり、頭を金造の肩に預けて睡魔に安心して負けられる気がした。無駄に包容力持ちやがって、なんて思いながら、千秋は意識を手放した。



1ヶ月後、バンド以外の仕事をすべて引退すると言って社会に驚かれた千秋の新曲は、ファンたちがそれに納得させられるようなものだった。そして、それを聴いた金造に半泣きで抱き着かれて「おすわりだ駄犬こら」と言った千秋に、祓魔師たちがその関係に首を傾げることになるのだった。


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