わんわんお−2
訳が分からない、と呆然自失としながらも、その尻尾は見慣れたものだった。そして何よりも直感で、こいつが金造だと感じていた。
「信じられへん?」
「あ…いや、」
金造はいったん体を離すと、困ったように聞いてくる。その目が、以前「お手わり!」と言って、お手なのかお座りなのか分からず動けなくなったときと似ていた。というか同じだった。
「……なんか、何となく、お前が金造なんだなって、思うわ」
「ホンマか!俺かてまさか人型になれるとは思わんかってん!千秋にこうやって触って、千秋と同じ高さで見て、同じモン食えるんやろ?嬉しすぎてどうにかなってまいそうや!!」
やかましい。耳もとでテンションを爆発させて話す声がうるさい。しかも思ったより声が低かった。
だが、その言葉を聞いてじわじわ実感が沸き上がってきた。とりあえず理由は置いておいて、こうして金造が人型になったことは事実だ。それはつまり、人間のように同じ時間や経験を共有できるということだ。
「せやし、さっそく!散歩!行こうや!」
「散歩?あぁ…そうだね、なんかもう、いーや…なんでもいーや!散歩行こっか」
そう考えると悪くないような気がして、まぁいいか、と開き直ることにした。金造とともに立ち上がると、金造の方が背が高い。体格もいいし、何だか釈然としないが、まずは服を着せなければ。
大きめの服あったかな、とクローゼットに向かうと、「千秋!」と呼び止められる。
「はよ行こうや!」
振り返ると、金造は首輪を自らつけてリードを差し出してきていた。もちろん、全裸である。千秋は意識を飛ばしそうになるのを堪えて痛恨の叫びを上げた。
「……犯罪かよ!?!?つかマニアック過ぎだな!?!?」
***
その後なんとか嫌がる金造に服を着せ、リードを外して散歩に行った。道行くものにいちいちリアクションをとり、蝶を追い掛けようとし、電柱をトイレ呼ばわりするものだから、その度に人間の価値観を指摘した。おかげで、帰宅すると疲れてベッドにまっすぐ横たわってしまった。
「あー……疲れた……」
そんな千秋に、金造は心配そうにしながら自身の服を脱いだ。
どうしても窮屈で嫌だと言うので、部屋の中でなら、下着以外の脱衣を認めた。無駄に引き締まった体が惜し気もなく晒される。
「千秋……ごめんな、俺、人間のことあんまよう分かってへんさかい、疲れさせてもうて……」
しゅん、とする金造の耳と尻尾が垂れる。叱られたときの反応だ。犬の姿でも人型でも、金造というだけで可愛く思えてきてしまった自分に「逆にすげぇわ」と何だか感心すら覚える。
「…別に、謝ることじゃないよ。てか、俺もお前とこうやって話せるってことが、なんか、すげえ嬉しいし」
本心だ。笑って言ってやると、金造はピンと尻尾を立てて「ホンマ?」と聞いてくる。頷くと、嬉しそうにしながらベッドに上がってくる。
そして、すんなりと千秋の上に股がってマウントを取った。
「………えっ、」
「俺知っとるで!愛し合う2人が同居しとるっちゅーことは、するんやろ?セッ―――」
「ちょっと待て!どこでそんなこと知った!?」
「テレビでやっとったやん。たまにつけっぱなしで出てったさかい見とったんや」
「へ、へぇ……?」
金造はニヤリ、と当然雄っぽく笑うと、千秋の首筋に顔を埋めてくる。
「あー…千秋かいらしなぁ…俺の子ぉ頼むで」
「……っ!?バカか!!!」
「いだぁっ!!」
何を言うかと思えば、まさに動物的な雄っぽいことを言ってきたものだから、なぜか羞恥心が沸き上がり殴った。金造は呻いているが、千秋に倒れて体重をかけるようなことはしない。
その代わり、横に倒れると、千秋を抱き締めた。自分より大柄のため、簡単に包まれてしまう。
「ちょ、なに……」
「……俺、あんとき千秋に拾てもろて…ホンマ嬉しかった。一緒に暮らせて、ホンマ幸せやねん…」
人間になりたてだからだろうか、感情を隠すことをせず吐露させる。震える声は今にも泣き出しそうだった。
「金造……?」
「俺のこと救ってくれた千秋が大好きや。好き、好き、ホンマ好き」
抱き着いて、耳もとでうわ言のように好きと連呼されて、顔に熱が溜まる。あまりにも、真っ直ぐだった。
「……これからも、ずっと一緒におってええ……?千秋のこと、絶対、俺が守ったるから……」
「……金造は金造だ、捨てたりなんかしないよ」
その髪を撫でてやると、尻尾がゆらりと揺れる。
本当に、見かけが変わっただけだ。本質は変わっていないし、千秋の気持ちも変わっていない。大事なのは、気持ちを変えないことだ。
でも、「守るから」なんて言われてドキリとしてしまったから、もしかしたら、気持ちが発展してしまうのかもしれないなぁ、なんて、ぼんやりと思うのだった。