Stoic Love−1
●大学生パロ
祓魔師ではないです。
主人公がストーカーに遭っているのでご注意ください。
勝呂(20)×主(20)
彼、勝呂竜士に対して千秋が感じている印象は、ストイックだなぁ、というくらいだった。
東京23区の端、杉並区の阿佐ヶ谷駅が最寄りの大学に通う千秋は、少人数の必修英語の授業で同じクラスに入っている勝呂とほとんど関わりがなかった。経営学部観光学科という専攻科は、名前からして遊んでいそうだ、とは思わないでもない。事実、多くの学生が時間を浪費し、単位を機械的に 稼ぐ生活をしていた。
この春に2年生になった千秋とて、興味がゼロではなかったものの、第一志望は経済学部だった。受かったのがこの学科だけだったのだ。それでも、千秋はわりとここでの勉強を楽しんでいる。もともと勉強は好きなので、ちゃんと学生の本分通りだ。テスト前に友人たちに頼られるのもいつものこと。
そんな千秋は友達は多い方だと思っている。バイトばかりでサークルは入っていないため、学部授業だけにしてはキャンパス内でしょっちゅう声をかけられる。いつも誰かといるし、人の輪にいる。
人からは社交的だと言われてきたので、まぁそういうことなのだろう。
一方で、少人数の英語クラスなのに関わったことがないのが勝呂だった。普通なら皆仲良くなるものだが、勝呂は周りと明確に距離をおいていた。中高生ならむっとされそうなものだが、大学生ともなれば「そういうやつもいるんだな」で終わりだ。
千秋も人と群れるのは嫌なのだろう、とわざわざ話しかけることはなかった。
勝呂はそういう一匹狼なやつだっただけあって、非常に成績がいい。教授たちが言っていた。「お前ら、二宮と勝呂の爪の垢煎じて飲めよ」なんて言う教授はよくいる。それに一度、勝呂が成績優秀者に与えられる特待奨学金の書類を提出しているのを見たことがある。そこで提出していた成績のGPAは3.75。ほぼ全科目で最高評価ということだ。二宮だって3.3と良い方だが、この0.45の差はあまりに大きい。
そんな勝呂が、それではがり勉なのかというとそうではない。むしろ、体格が良く筋肉質であるし、髪の毛はソフトモヒカンでモヒカン部分が金髪。ピアスもしており、どちらかといえばヤンキーだ。ヤンキーなのに成績が良い。そのギャップを教授たちは面白そうにしていたし、女子たちはときめいていた。関西弁を喋るのもぐっとくるらしい。そうやって女子の人気を集めている勝呂が、果たしてどんなやつなのか、千秋は勉強に打ち込むストイックな面以外は知らなかったし、これからも知らないのだろうと思っていた。
***
大学生特権、長い長い夏休みがようやく終わった9月末。そろそろ残暑も鳴りを潜めようか、といった頃のことだった。
授業が午前で終わったため、午後から19時まで本屋でのバイトを終えた帰路。キャンパスもバイト先も、そして一人暮らしをしているアパートも阿佐ヶ谷駅近辺にある千秋は徒歩で帰っていた。途中、駅の反対側に抜けて行くのだが、今日はそこがいつもより多くの人で賑わっていた。こういうときはだいたい、鉄道ダイヤの乱れだ。
案の定、自由通路に入れば改札から駅員の必死なアナウンスが絶えず聞こえてくる。
『ただいま中央線快速・各駅停車は、武蔵小金井駅で発生した人身事故により全線運転を見合わせております!』
東京を西の端から東京駅まで横断する、山手線に次ぐ大動脈。どこでも自殺の名所になり得る路線でも知られる。帰宅ラッシュだから、都心の駅はごった返しているだろう。
学校もバイトも徒歩圏内の千秋は大変だな、と思うだけだ。
すると視界に、見覚えのある金髪が入った。タメ息をついて電光板を見上げるのは、勝呂だ。帰れなくて困っているのだろう。それを見て、つい足を止めてしまう。
この都会で。このスマホご時世で。こんなときに時間を潰すことくらい簡単だ。だからこそ、気遣いが互いに不要なため若者は得てしてサバサバしがちになった。そう分かっているのに、何となく、助けたいと思ってしまった。これを機に仲良くなってみたかったのかもしれない。
千秋は足を改札の方へと向けた。
「勝呂君、」
「っ、二宮…?」
声をかけてみれば、意外にも名前を知ってくれていた。顔を見たことがあるだけ、と思われていると懸念していたのだが。
「帰れないの?」
ちらりと電光板の「おくれ50分」という赤い文字を見ると、勝呂もそちらを険しい顔で見た。これで20分30分なら改札で待っていた方がいいこともあるが、50分は厳しい。
「あぁ…俺ん家、小金井市やさかい」
「そりゃまた…絶妙に帰りづらいな」
鉄道なら中央線以外では行けないところだ。ここから地下鉄の駅まで歩いて新宿まで行き、私鉄で近くまで行ってバスか。待ち時間を含めて1時間で済むかどうかといったところだ。
「…チッ、明日は英語のテストやっちゅうに…」
「うわ、そうだった」
同じクラスだから思い出したが、明日の英語は休み明けテストがある。しかも範囲があまりにも広い。千秋も終わっていなかった。
「英語の教材家やし。まだ終わってへんねや」
「え、意外。もう三週目くらいするのかと思ってた」
「バイト詰めこんどったさかい、さすがにそれはできひんわ。はぁ、どないしよ」
「…それならさ、今日ウチ泊まってく?」
その言葉が出るのに、そう逡巡もなかった。キャンパスに近いため友人が来ることは、前はよくあったし、男どうしだ。特に気にすることもない。
「俺一人暮らしだし」
「…せやけど、」
『ご不便おかけして申し訳ありません、中央線全線、終日運休とさせていただきます!!』
「……だってさ」
ちょうどよく響いたアナウンスに、勝呂は観念したように頷いた。