Stoic Love−2
駅を出て、2人でロータリーから小さな商店街に入っていく。 それなりに人で賑わう通りを歩く2人は、意外にも話が続いていた。
「勝呂君って、京都出身なの?」
「よう分かったな」
「親戚が京都出身でさ、方言似てたから。じゃあ一人暮らし?」
「せや。大学から…こっち来た」
「あっ、やっぱ上京って言わないんだ?」
「…、まぁな」
ちょっと言いづらそうに顔を背けるのが面白い。本当に上京って言わないのだなぁ、と地方あるあるを感じて興味深かった。
「二宮も一人暮らしなんやろ。どこ住んどったん」
「俺は北海道!北見っていう、北海道で1番広い市に住んでた」
「北見…聞いたことあらへんなぁ」
「何もないからね!街の中心より阿佐ヶ谷のが栄えてるよ」
「まぁ、栄えてりゃええってもんでもあらへんしなぁ」
そうやって話しているうちに、勝呂は京都の老舗旅館の息子だと知った。卒業後は旅館を継ぐために、観光学科で勉強をしているらしい。
「いいなぁ、金持ちじゃん」
「そないに楽なもんでもないわ」
「まぁ、俺ん家の畑だって見渡す限り視界に入る土地全部だけどね」
「全部足しても阿佐ヶ谷の一軒家にもならへんやろ」
「うるせーわ!その通りだわ!でも日本の自給率38%維持してんの北海道のおかげなんだぞ!」
「あー、それは否めへんな」
意外と勝呂は話しやすく、冗談をニヤリとして言ってくる。からかわれているのだが、こんなことも言うんだなぁと思った。
やがて2人はアパートに着いた。普通の鉄筋の新しいアパートだ。セキュリティ玄関はない。直接階段を上がり、部屋へ向かう。
いつものようにトートバッグから鍵を取り出しながら廊下を進むと、玄関扉の郵便受けにA4茶封筒が差し込まれてるのが見えた。覚えのないそれに首をかしげる。
「なんだこれ」
とりあえずそれを抜き取り、鍵を開けて中に入る。
明かりをつけると、狭い玄関と短い扉の先にメインの部屋が見える。廊下右手にキッチン、左手に浴室とトイレの扉がある。いたって普通の一人暮らしルームだ。
「お邪魔します」
「おー」
きちんと挨拶をして入ってくれる。そのまま部屋に通して、適当にローテーブル近くに座らせた。カーペットにローテーブル、ベッド、本棚代わりのカラーボックスが家具だ。テレビはないがタブレットとパソコンがある。
「意外と綺麗やな」
「意外ってなんだよ」
笑いながらキッチンでコーヒーを淹れてテーブルに出すと、勝呂は礼を言って口につける。ベッドに寄り掛かるようにして座る勝呂の隣、ベッドに座ると、千秋は茶封筒をハサミで開いた。
「差出人も切手もないから、直接出したのか」
「なんやそれ、怪しないか」
勝呂も怪訝そうにした。千秋も頷いて慎重に開けると、中身を出すため封筒を傾ける。
その瞬間、中から大量の写真が落ちてきて、ベッドや床に散らばった。そこに写るものを見て、千秋の動きは止まる。勝呂も目を見張った。
それは、すべて千秋だけを写した写真だった。ざっと50枚はある。多くはキャンパス内、バイト先や、この部屋の中でのものまである。
そして、すべての裏側にぎっしりと文字が書いてあった。ちらりと見るだけで、それが千秋への恋文だと分かる。1枚1枚、書いてあることが違う上に、一人称は「ぼく」、つまり男だ。
「な、んだこれ…」
「…ストーカー、やろ、完全に」
冷静さを一足先に取り戻したらしい勝呂は、写真の1枚を手に取り、眉を寄せる。
「しかも…これ、授業中やないか。スクリーンからして政治学やろ」
「あ…てことは、」
政治学は2年開講のため、2年しかいない。つまり、同じ学年で政治学を受講している男だ。
「だいたい、30人くらいに絞れるやろ。…犯人は学内のやつや」
「…なんで、俺なんか…」
知らない間に、これだけの写真を撮られ、そして見られていたのだ。しかも、家やバイト先でまで。言い知れぬ恐怖が沸き上がり、思わず手が震えた。
勝呂はそれを見て、ベッドの千秋の隣に腰掛けた。そして、そっと肩を抱いてくる。
「二宮、落ち着け。大丈夫や」
「す、ぐろ……」
「…どうせ警察は頼られへん、短期決戦で現場押さえるで」
「…?」
ショックで頭が真っ白だった千秋だが、勝呂が落ち着き払って、しかもすでに作戦まで立てているのを見て少し落ち着く。一人だったら取り乱していた。
勝呂の作戦は簡単なものだった。これからはずっと2人で、ことさら仲良さそうに行動し、まるで付き合っているかのように見せる。すぐにストーカーは激昂して行動を起こすはずなので、そこを勝呂が捕まえるというものだ。
「それ、勝呂が危なくない?…てか、なんでそんな」
「別に、深い意味はあらへん。ほっておけんだけや。…それか、一宿一飯の恩て思えばええ」
大したことではないように勝呂は言ってくれる。演技とはいえ男どうしで付き合うような真似をするのも、普通は抵抗があるだろう。それでも気にしないよう言ってくれた勝呂は、間違いなく男前だった。