Stoic Love 2−1


続き



千秋は1ルームマンションの小さなキッチンで、手際よく夕飯の準備をしていた。
肉じゃがと焼き鯖、おひたしと純和風な料理だが、今日はたまたまであり、いつもは和洋関係なくその日の最も安くて健康に良いメニューである。

概ね終わって皿を出そうかと考えていると、がちゃりと玄関が開く。帰って来た、とそちらを見ると、見慣れた愛しい姿。


「おかえり、竜士。もうすぐ晩飯できるよ」

「…ただいま。分かった」


勝呂竜士、千秋と同じ大学の学生であり、千秋の恋人だ。バイト帰りの竜士は少し疲れているようにも見えたが、料理をしながら出迎えた千秋に柔らかい笑顔を見せた。
最近、名字から名前呼びに変わったこともあり、なんだか新婚感を感じる。



「なんや、新婚みたいやな」

「…同じこと思ってたわ」


すると、竜士も同じことを言いだした。思考回路が同じということだ。気恥ずかしいが、それ以上に嬉しく感じてしまう。


「……ごはんにする?お風呂にする?それとも…いうやつやってくれへんのか」

「やだよ、腹減った」

「それはあるな」


もはや誰もやらないだろう新婚テンプレを口にする竜士に笑いつつ、千秋は冷静に返した。竜士もにやりとして同意する。どちらにせよすべていただくから、くらいのことは考えていそうだ。


「なんにせよ、全部いただいてくさかいな、順番なんてなんでもええわ」


そして千秋の思っていた通りのことを言い出すものだから、あまりに互いの思考が似ていて、千秋は堪らない気持ちになった。



***



食後、風呂も入り、時計はそろそろ日付の変更を示そうとしている。ベッドにもたれるようにカーペットに座り、テレビを見ていた千秋は、風呂上りの竜士がTシャツにスウェット姿で髪を下ろしている様子に視線を向ける。ソフトモヒカンがだらんと力なく垂れているのは、竜士のオフの姿にほかならず、それを見れる優越感をなぜか抱いてしまう。


「見すぎや」

「ごめん」


まったく謝る気のない棒読みを返したが、竜士は呆れたようにタオルを放るとスマホを手に取る。色々と確認しているのを横目に、そろそろ寝るのだろうとテレビを消して千秋は先にベッドに上がる。
狭い単身者用の部屋で寝るには、2人で同じベッドに入るのが最も効率的だったし、恋人だから当然、というような意識もあった。

竜士はスマホを置くと、千秋に続いてベッドに入る。かけ布団を被り、リモコンで明かりを返すと部屋は暗闇に包まれる。
右隣に感じる竜士の高い体温が伝わり、竜士の匂いと混ざった同じシャンプーの匂いに落ち着く。

落ち着くが、千秋は少し拍子抜けしていた。なぜなら、かれこれ1週間は、夜の行為を致していないからだ。ようは、今晩抱いてくるものと思っていた。
しかし竜士はあっさり寝ようとしており、千秋としては欲求不満気味である。

だが、ここで竜士に求めることができないのが千秋のちょっとした悩みである。彼女ならいたことがあるが、もともと異性愛者の千秋は同性相手にどうすればいいか分からない。誘い方が分からないのだ。かといって直球に誘うのも恥ずかしい。千秋が受け入れる側だからだろうか。
千秋としては行為をすることはそこまで負担に思っていないし、普段も本当はくっつきたい。距離が近いとはよく言われることだ。そうは言っても、竜士は大学でずっと一匹狼を貫いていた男だ、鬱陶しがるかもしれないと思うと、いつもより距離を開けてしまっていた。


「…竜士?」

「なんや」


特に声音は疲れているわけではない。そこまで眠そうにもしていなかった。状況としては良い。
どうしてもそういう気分だった千秋は、頑張って誘ってみることにした。
こちらを向いた竜士の左手を握り、右手を自身の足の付け根あたりに添える。手は塞がっているので、竜士のシャツの襟もとを軽く噛んで引っ張った。
ぐいぐい、と襟を口で引っ張っていると、竜士がのそりと体を起こしマウントを取る。その眼はぎらついていた。

千秋はホッとして、その首元に腕を伸ばしたのだった。


prev next
back
表紙に戻る