救いの祈り−6
「…あのコンボスキニオンは、母さんが使ってた物だった。母さんと同じ言葉で、母さんと同じ物を使って祈ってたら、頑張れる気がしたんだ。一人じゃないって、思える気がした」
7歳で一人になってから、血反吐を吐くような訓練を受け、傭兵になり、相手の血を浴びてきた。祓魔塾でも、誰とも関わらずに一心不乱に勉強した。
千秋とてロボットではない、そんな生活をつらく感じないわけがなかった。それでも、このコンボスキニオンを使って祈れば、母と繋がるような気がしたのだ。励まされているように感じたのである。
「…銃器狂なんて呼ばれるくらい、銃を撃ってきたし、人を殺してきた。そんな俺には似つかわしくないけどな」
こんな自分を、神も母も許してはくれないだろう。こんな罪人に慈悲など無縁だ。そう自嘲気味に言うと、ルーインは突然、千秋とともにベッドに倒れた。自然とルーインの上に重なり、その胸板に倒れこむ。
「ちょ、ライトニング…!」
「ルーインって呼んでよ」
「え…」
戸惑う千秋だったが、無言の圧をかけるルーインに観念して「…ルーイン、」と呼ぶ。呼ばれ方など気にしたことなかったのにだ。
「…初めて君を見たとき、天使みたいって思ったんだ」
「は…?」
「瓦礫の山で祈ってる姿がさ。見た目も端整だし。…だからってわけじゃないけど、君のその気持ちは、似つかわしくなくなんてない。むしろ、君にこそ相応しい尊いものなんじゃないかな、千秋」
そんなことを言われたのは初めてだった。そもそもこのことを話したのもルーインが初めてだ。
それでも、千秋の周りにいた人々は、千秋を血生臭そうに見ていたのだ。だから、誰にも認められないものだと思っていた。こんな自分が、母を想って、空虚な祈りという行為にすがることなど。
「それに、もう千秋は一人じゃないだろ?アーサーだって、皆だっている。何より、僕が側にいる」
「な、何言ってんの、ライトニング…」
「ルーイン。君には名前で呼んで欲しい」
普段の飄々とした態度からは想像もつかない真摯な声に動揺すると、ルーインは千秋を抱き締めて横向きになる。自然と、互いに向き合うように横になり、ルーインの腕を枕にしていた。いつもは隠れてみえにくい瞳が、すく側にある。
ルーインはふ、と笑うと、千秋の目の下を優しく摩る。
「やっぱ、綺麗な目だね」
「っ、ルーイン…?」
「好きだ。千秋、君の側に、僕をずっと置かせてくれないか」
驚くしかなかった。真面目な顔で、それでも、愛しくて仕方がないとばかりの目で見てくる。そうやって言われた告白に、思わず千秋の胸がドキリと高鳴った。
「お、俺、好きとか、そういうの、分かんないし…!」
「今はいいよ。僕がずっと君の側にいるのは嫌?」
ルーインがずっと側にいてくれる。
誰もいなかった千秋にとって、それはあまりにも贅沢に思えた。
「嫌じゃない、けど、そんなの、俺にするようなことじゃ、」
「君だからしたいんだよ、千秋。余計なことは考えなくていい、嫌じゃないなら許して」
ずるい言い方だ。そんな言われ方をしたら、手を伸ばしたくなってしまう。我が儘を言いたくなってしまう。
「い、いのかな、俺が、そんなこと」
「いいんだよ、千秋。もう、いいんだ」
優しく包み込むように言われ、無意識に目が潤むのに気付いた。自分でも気付いていなかった願望だった。見て見ぬふりをしていたのかもしれない。ずっと、欲しかったものだった。
「側に、いて欲しい、ルーイン…もう、一人は嫌だ…!」
「っ、よく言ったね、えらいえらい」
口ではそんな軽い言い方をしながら、ルーインは強く千秋を抱き締めた。胸元に顔を押し付けられ、温もりを求めるようにすり寄る。
こうやって触れていると、なんだか胸の奥がポカポカとするような気がした。いったい何なのかは分からないが、とりあえず今は、これで良かった。ルーインに触れていられる方が大事だ。
その気持ちの名前を知るときは、そう遠くない。