救いの祈り−5


ルーインに聖天使團に引き入れられた千秋は、実力を認めてもらえたこともあって、それから1年で主力に位置付けられた。称号は騎士、竜騎士、手騎士、医工騎士で、上二級である。
珍しくルーインが誘ったということで団長のアーサーは最初から歓迎してくれたし、たまにいけすかないことも言うが、認定試験に受かったときにはとても喜んでくれた。当たり前だが最年少で、皆にちょっかいをかけられる気がする。
そんな暖かいところで過ごしたから、皆に絡まれる内に元来の口の悪さも出てきている。

特に、千秋を拾ってくれたルーインには。



***



「千秋〜、1匹そっち行ったよ、一緒に倒そう!」

「くせえうっせえ近寄るな」

「ひどいなぁ」


機関銃で巨大な熊の悪魔を蜂の巣にして祓うと、重たいそれをさっさと消す。
ルーマニアのトランシルヴァニア地方の森の中、場所によっては神と称されるような上級の悪魔が大量発生し、ルーマニア支部から応援要請があった。

熊に憑依するその悪魔を1体難なく倒したところへ、ルーインが突然腰を掴んできた。


「ひっ、」

「こんな細いのにどうやって機関銃なんて振り回してるんだろうねぇ〜」

「……おい、おっさん」


宙に浮かぶ魔法円からショットガンを取り出すと、腰をさすさすと触るようにして後ろから抱き着くルーインは首をかしげる。


「どーしたの?ショットガンなんて」

「あんたにヘッドショットかましてやるためだよ、ライトニング」

「わぉ!ゾンビ映画みたいでわくわくしちゃうね」

「てめぇはそっこー撃たれるエキストラだ、光栄に思え」

「…君になら本望だよ、千秋」


甘く耳元で囁かれ、ぞわぞわとしたものが背筋を駆け抜ける。何言ってんだ、と拘束を一瞬で解いてショットガンを放つも、ルーインはさっと離れた。


「本気だったでしょ、危ないなぁ」

「はぁ?あんたならこんくらい避けられるだろうが」

「…そういうところが可愛いんだって」



小声で言ったルーインに聞き返そうとすると、アーサーから「任務完了だ、帰ろう!」と号令がかかり、とりあえず帰ることになった。


ヴァチカンに戻ると、千秋はさっさと報告書を仕上げてアーサーに提出し、本部に宛がわれた自室に帰った。ベッドにデスク、シャワールームまでついた豪華な部屋だ。だがアーサーは「俺の家のトイレくらいの広さだな!千秋にそんな部屋を宛がうとは…」と言っていた。優しさが滲むため怒るに怒れなかった。


「千秋〜、お疲れ」


その部屋に、ルーインが訪ねてきた。よく任務のあとは帰るのが面倒だと言って押し掛けてくるのだ。その度にソファーで寝ていく。そういうときは汚れるのが嫌でシャワーに突っ込む。

今日もとりあえず無言でシャワールームに押込み、その間にコンボスキニオンを両手で絡めて持つ。


「Seigneur Jésus-Christ, Fils de Dieu, aie pitié de moi, pécheur.Seigneur Jésus-Christ, Fils de Dieu, aie pitié de moi, pécheur.」


玉を手繰り寄せながら呟く。そこへ、ルーインがシャワーを終えて出てきた。髪をかき揚げて、ぱっちりとした目を楽しげにしている。いつもは祈りを途中で止めることはないのだが、つい千秋は止めてしまう。


「…なんで服着てないんだ」

「ズボン履いてるよ?」


ルーインはスウェットの下だけは履いているが、上はタオルを首にかけるだけで、逞しい上体を晒していた。今日は暑いからだろうか。
デスクに座り祈っていた千秋のジト目を流し、ルーインは我が物顔でベッドに腰掛ける。

これ以上指摘するのもバカらしい、千秋も着替えようといったんコンボスキニオンをデスクに置き、祓魔師のコートをハンガーにかけ、シャツを脱いだ。部屋着のシャツを取ろうとルーインの前を横切った、そのとき。
突然、ルーインに引っ張られた。咄嗟にその肩に手を置いたが、動じることもなく抱き締められる。2人して上半身裸のため、肌がくっつく変な感じがする。


「うわっ、何してんだ!」

「ん〜?誘ってるのかと…」

「誰がだ!」


拘束から逃れるどころか、向きまでご丁寧に変えられて、左側にルーインにくっつく形で横向きになって、その足の間に座らされた。抵抗を諦めると、ルーインが話し始める。


「Seigneur Jésus-Christ, Fils de Dieu, aie pitié de moi, pécheur…主、イエス・キリストよ、罪人たる私に憐れみを与えよってとこか。フランス系なんだっけ?」

「…母がフランス系だった」

「言ってることはいつも魔法円を出すときの詠唱と同じだよね。お祈りはフランス語なんだ?」

「…あんたには関係ないだろ」

「ないね。でも、知りたい。千秋のことならね」


冗談でもなくルーインは言う。その真っ直ぐな瞳に、千秋が折れた。


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