ダメ男に恋して−1
●ライトニング(31)×夢主(21)
千秋とルーインが恋仲となって1年、2人は所属は違えどともに暮らすようになっていた。ともに、と言っても、千秋が暮らすのは所属するヴァチカン本部の一室で、アメリカ支部所属のルーインはずっと千秋の部屋に泊まっている形である。
当初、10も年下の恋人の部屋にずっと居座るなどということに頭の硬いアーサーやほかの一部の祓魔師は反対していた。ルーインのずぼらな性格をよくよくわかっているからだった。
実際、ルーインは正直千秋におんぶにだっこという感じで、生活をほぼ託している。
日本のシュラは「いいじゃ〜ん別に」と軽かったが、アーサーはくどくどと倫理を説いてルーインを説得すらしていた。
しかし生活が軌道に乗ってみると、いいことづくめだったのだ。
まず、ルーインの体臭が気にならなくなった。毎日千秋がルーインをシャワーにぶち込んでいるためだ。おかげで毎日近くで過ごす者たちから千秋は非常に感謝された。
続いて、放浪癖のあったルーインの居場所がすぐ分かるようになった。別に常日頃千秋といるわけではないものの、連絡不精なルーインが唯一こまめに連絡しているのが千秋であり、任務や仕事を忘れて外国にいるようなときも、千秋に聞けば居場所が分かった。
バレると分かっていても千秋に「これ見て〜すごいでしょ!」と自身の感動をSNSのようにシェアしているあたり、いかにルーインが千秋のことを溺愛しているか分かって祓魔師たちは千秋に生暖かい目を向けてくる。
そして何より、ルーインの食生活が改善されたことが最も良い影響だった。
***
「ただいま〜」
「おー、おかえり」
本部の千秋の部屋にて、ルーインの柔らかい声が響く。キッチンにいた千秋はそれに適当に返した。
扉が開き、廊下からルーインが顔を出すと、千秋はすり鉢に開けたゴマの量を確認して顔を上げる。
「ちょうどよかった、手ぇ洗ってこい」
「手伝わせる気だろ」
「働かざるは食うべからず」
「ぼかぁ今日はバンガロールで上級悪魔30体討伐したんだから十分働いたよ!」
「俺はキンシャサで上級悪魔20体倒してから麻薬組織の銃撃戦に巻き込まれて一般市民助けながら誰も祓魔師に怪我させずに撤退してきたけど」
「よーし手洗って手伝いまくるぞ〜」
ルーインはさっと洗面台に向かう。任務に出てきたのは互いに同じだ。とはいっても、たとえ今日千秋が任務に出ていなくてもルーインは頼んだら手伝ってくれただろう。年上だからかは分からないが、とにかく自分はあの男に甘やかされている。
まぁ、そもそも風呂に料理に連絡役にと介護のレベルで世話をしてやっているのは千秋なのだが。
少しして戻って来たルーインは、きちんと服も洗い立てのシャツとスウェットに変えていた。清潔な格好でなければキッチンに立つことを許さないからだ。
「じゃあルーインはタヒーニよろしく」
「えぇ、力仕事かぁ」
「逆にそれ以外に何の役に立てるんだ貴官は」
「何もできないであります!」
軍の上司のように言えば、ルーインは千秋の圧を感じてすぐに応じる。料理のできないバーガー男に料理してやっているこのキッチンの主に対する当然の態度だ。
ルーインはシャツの袖をまくる。晒された腕の筋肉が、すり鉢のゴマを木の棒ですりつぶし始めると動き出し、少しドキリとする。夜の行為のときに千秋を抱く腕だ。目をそらすと、ナスとカリフラワーのカットを始める。
タヒーニとは芝麻醤とも呼ばれるもので、ゴマをすりつぶしてごま油などでのばしペーストにしたものだ。ねりごまなどとも呼ばれる。
これからこのタヒーニをひよこ豆と一緒にさらにフンムスというペーストにする。