ダメ男に恋して−2


千秋はカットを終えたカリフラワーとナスをあいついで熱した油に投下して揚げていく。カリフラワーの素揚げをカルナビート・マクリー、ナスの素揚げをバシンジャン・マクリーという。
揚げている間に、ブルグールという小麦の挽き割りを用意する。ルーインが「疲れた〜」とほざいているのは無視だ。
千秋は子羊肉のひき肉とブルグールを混ぜてボールにし、先ほどの油にナスたちと入れ替えに投下する。これをキッビ・マクリーイェという。
あとは残りのブルグールを使ってパセリと合わせてタブーリというサラダにする。


「あ〜おいしそうな匂い。でも、肉はキッビだけ?」

「そうだけど」


今千秋たちが作っているのは、千秋の故郷であるレバノンの料理だ。レバノンはムスリムだけでなく、断食に似た食事制限を行う東方典礼教徒も人口の多くを占める。そのため、野菜料理が多いのである。断食と違い、東方正教会の食事制限は肉のみ禁止であることが多いからだ。
そのヘルシーさから、欧米ではレバノン料理はベジタリアンや健康志向の人々に人気である。


「もう一品!お願い!カフタかサンブーサクかファターイルかスフィーハがいい!」

「あつかましいな……」


いずれもひき肉料理のため材料はあるが、後半3つがパイ料理でもあるため、パイ系がお望みだと察する。手は止めずに顔だけこちらに向けて懇願するという器用なことをしているルーインに、ため息をひとつ。


「任務中にバーガー食ってたろ」

「………シュラか」


頭のいいルーインは、なぜか任務中の食事を知っていた千秋の情報源がシュラだとすぐに気づいた。事実、同じ任務に出ていたシュラからルーインが周囲の反対を聞かずにバーガーを食べていたと報告をしてくれた。
バーガーなどの体に悪いものを食べるなと千秋が言って聞かせているため、周囲の祓魔師たちもルーインに説得するのだ。なぜなら、これがバレると千秋にベジタリアン生活を強いられ、ルーインが苛立ち、千秋には間違ってもぶつけられないそれを周囲の祓魔師に八つ当たりするからである。


「ごめん!もうしない!!」

「それ聞いたの何回目だよ」

「これが最終回だから!!!!」

「それも何度も聞いた。ほら、早くタヒーニ作れよ」


すげなく返すと、千秋は目線をルーインから手元に戻す。ルーインはなにやら泣き言を言いながらせっせとペーストをつくり続ける。
だが、野菜料理中心のレバノン料理を千秋が作ることによってルーインの体の調子が目に見えてよくなったのも事実で、アーサーなどはそんな姿を見て食費をルーインが負担する代わりにこの状況を認めたほどだ。

キッビを油から上げて皿に移し菜箸を置くと、突然、後ろから抱き込まれた。気配で分かっていたため驚かないが、ジト目で後ろを見やる。


「…なんだよ」

「ほんとお願いだよ…今日ドロッドロに優しくして、とことん甘やかしてあげるからさ…」


もちろん夜の話だ。耳元で低く濡れたように囁かれると、千秋は情事の感触を思い出して震える。こう言うときは、言葉通りめちゃくちゃに甘やかされる。それはもう、本当に溶けてしまうのではないかというくらい。


「…俺、シュラにダメ男に引っかかるタイプだよなって言われた」

「あはは、ひどいなぁ」

「はぁ……仕方ないから引っかかってやるよ」


千秋はため息をつくと、後ろを向いてルーインの鎖骨あたりにすり寄る。洗い立てのシャツの洗剤の匂いと、僅かなゴマの匂い。おなかが空く匂いだ。


「…引っかかりにおいで、一生大事にしてやるから」


くすりと笑うルーインと唇を合わせる。あぁ、ダメ男に恋をするのは難儀だな、と思ってもいないようなことを思う千秋だった。


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