ぴったりずれる−2




「やっぱみんな休みじゃないか、まったく」


ルーインはそんなヴァチカンを見てまたぷんすことし始めた。自身も無神論者と言いつつ何をそんなにこだわっているのだろうか。


「そんなクリスマスなんか気にするやつだっけ」

「んー、まぁ、一昔前ならしなかったさ」


ルーインはそう言うと、千秋のことをそっと抱きしめた。いつもならルーインの方が温かいのに、今日はさすがに冷えているようだ。


「ここ数年はさ、千秋と一緒にいられることが嬉しくて、周りも俺たちのこと休みにしてくれてたけど、今年でそれも終わったっぽいし?でもやっぱり、恋人と特別なことをしたいって思うでしょ?」


どうやら、この男にもそういう一般的な感覚があったらしい。しかもそれは、おそらく千秋にしか発揮されないものだ。そういうルーインの「千秋にだけ」見せる顔に、千秋はとことん弱かった。


「…俺は、一緒にいられればいいし」

「俺だってそうさ。でも、季節や時間にメリハリをつけるっていうのは大事なことだよ。宗教的でも商業的でも、そういうのに乗っかるっていうのは、そういう特別じゃない時間をきちんと形にするために必要なものだ」


日常の時間は大事だし、それが1年の大部分を占める。しかし、きちんとイベントごとをやって季節を感じるというのは、そういう特別な時間によって特別ではない時間を際立たせるためにも必要なメリハリだということだ。
こういうときに、ルーインは自分より10年年上なのだと感じるのだ。


「…俺、別にいつもの時間大事にしてないわけじゃない」


千秋はルーインの肩に顔を埋めて小さく反論する。イベントごとを軽視しがちな自覚があるからだ。


「はは、分かってるよ、かわいいな」


しかしルーインは笑って、千秋の後頭部を撫でた。よしよしという甘やかされるようなそれは、千秋にも抗いがたいものだ。


「一般論だよ。別に、毎年そうである必要もないし、時期に年明けだしね。ただ俺は、千秋と過ごす時間を、どんなに長く一緒に時を重ねても大事にしたいだけだ」

「…そんなん俺もだし」


10歳離れているというのは、やはり決定的だ。それが受け入れられないような気がしたときもあったが、長らく一緒にいる千秋は、もう慣れた。すっかり受け入れて、ルーインに素直に甘えて寄りかかる。それが、ルーインにとっても寄りかかられることで自身を保っている側面となっているのもわかっていた。


「じゃあ、今回は千秋に合わせてみよう。1月7日がクリスマスなんだろ?ケバブケーキでも食べようよ」

「…はは、何それ」


突然の脂っこいケーキに思わず笑いが漏れる。そういうところは米国人らしい。その割に腹筋がいつまでも逞しく割れているのが解せない。


「ニューイヤーだろ、クリスマスだろ、イースターだろ…やっぱイベントごとが多いと楽しいよ」

「で?七面鳥とケバブと卵料理浴びるように食うの?」

「太りそう」

「そんな体に悪いこと俺が許すか。レバノン料理だ」

「それも悪くないけどケバブケーキはしようね」


ベジタリアンに愛されるレバノン料理にルーインが慣れて久しい。だがケバブケーキとやらは外せないらしい。そんな料理は聞いたことがないが、ルーインも見たことはないだろう。
作ってやるのもいいかもしれない。


確かに、こうやって先の予定を立ててこんなことをしようと笑いあえるのは、1年にイベントがあるからだろう。

二人とも、世間とは感覚がずれていることは自覚がある。それでも、二人そろってずれていれば、それはそれで楽しく特別な日常が刻んでいけると思うのだ。


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