窓際で
●高1、6月
廉造視点
正十字学園入学後、初の定期テストがやって来た。中間テストとして示された範囲は、とてもじゃないがこれまでの比ではない。
廉造は今のところ小テストなどはそう成績は悪くなく、朝祇はもちろん悪くない。そのため、正直あまり問題はないのだが、これまでの慣れからか、2人は放課後に勉強するようになった。特に祓魔塾がない日はそうだ。
始業以来、窓際後方を陣取る朝祇と廉造は、机をくっ付けあって今日も勉強に励む。
廉造の右手、向き合う朝祇にとっては左手には窓があり、そこから初夏の柔らかな風が吹き込んでくる。海が近いからか、少し潮の香りもした。
だんだん鋭さを持ち始めながらもまだまだ柔らかさを持つ陽射しも暖かい。
「朝祇、ここなんで連体形なん?」
「体言が省略されてんの。言わなくても分かる抽象的な名詞、こと、とか、もの、とか、ところ、とか、そういうのが省略されてるから体言のない連体形になってるだけ。準体法ってやつな」
「なるほどなあ〜」
たまにこうやって、ぽつりぽつりと質問と回答をし合う。それ以外は、外の都会の喧騒を遠くに聞きながらの沈黙である。
教室内には他に誰もいない。
しばらく勉強していると、廊下を喋りながら移動している女子たちの声が近付いてきた。朝祇一筋とはいえ、女子の声を追ってしまうのはもう体に染み付いてしまった癖のようなものだ。
なぜか人は通りすぎ様に教室内を一瞥してしまうもので、その女子たちもちらりとこちらを見ると途端に話すのをやめて静かになった。次の扉からこちらを見たときも同様だ。
そして通りすぎると、圧し殺したように喜声を上げた。
「C組のイケメンコンビだ!」
「一ノ瀬君カッコいいねぇ〜!」
「あたし志摩君派〜!」
その声はもともと小さく潜められていた上にフェードアウトしていったため、廉造の癖でなければ聞き取りきれなかっただろう。嬉しいには嬉しいが、以前ほどそんなことは思わなくなったなぁ、と思ってふと顔を上げると、朝祇は窓の外をぼう、と眺めていた。先ほどの声は聞こえていないようだ。
白いカーディガンが萌え袖となった状態で頬杖をつき、爽やかな風が吹き込む窓を眺めるその顔は、カッコいいというよりは美しいと言ったほうが近い。光に照らされ、鎖骨に黒や赤の線が浮き上がるのが見える。それは顔の綺麗さとあいまって、この世のものではないような感じがした。
その視線に気付いたのか、朝祇は首を傾げてこちらを向く。
「……なに?」
「いや〜、朝祇はホンマ綺麗な顔しとるなぁって」
「はぁ?」
「それより!朝祇がぼーっとしとるの珍しない?集中切れてもうたん?」
顔をしかめた途端に現実味が出たような気がして、廉造は怪しまれないように話を変えた。朝祇は特に気にしていないのか、あくびをしながら頷いた。どうやら眠たかったらしい。
「眠いん?」
「あー…まぁな。新しい環境慣れると普通より眠くなる気がするわ」
「ちょっと寝てまえば?起こしたるで」
「んー…そうしよっかなぁ…」
そう言いながら朝祇はずるずると頬杖を崩して腕に顔を埋めるようにして机に伏せる。半分腕から出してこちらを見上げる眠たげな視線が可愛い、と廉造は一人ごちる。
その唇にどうしてもキスしたくなって、廉造はついちゅっ、と軽くキスを落としてしまった。眠いし動じないだろう、と思って席に座り直すが、朝祇はなんと耳を赤くして完全に伏せてしまった。無言だが、確実に照れている。
「え…朝祇…?」
「うっさい」
「…あー、ホンマかいらしなぁ…」
つい先日、オーラルとはいえ初めて致したからだろうか。反応がいい朝祇にニヤケを押さえきれない。可愛い可愛い、と廉造は内心で唱えながら、朝祇の柔らかな髪を撫でる。それが気持ち良かったのか、だんだんと朝祇の意識は落ちていった。
堪忍なぁ、朝祇は俺のやし、可愛いタイプなんよ、と廉造は先ほどの女子たちに心の中で謝った。