C組の2人


●モブ腐女子のクラスメート目線



私はただのモブだ。
強いて言うなら、腐女子をしている。

親は自営業のそれなりの金持ちで、金持ちらしく中学から東京都心にある正十字学園に押し込まれた。全寮制の学園なので、私はまさに胸の高鳴りを感じて入学したものだ。

なぜなら腐女子、全寮制なら男の子たちが同じところで暮らすというこの文字列だけで3年は白米だけでやっていける。
しかし、私にとって誤算だったのは、共学だからか何なのか、まったく生のBLを見る機会がなかったばかりか、顔の偏差値が低かったことだ。もはや視力の無駄遣い、仕方なく二次元世界での消費者となった。
ただ、同士が一定数いたため、BLに萌え勤しむ仲間には恵まれた。それだけが救いだった。

このまま、そんな生活が続くのだろう、そう思っていた。


だがしかし。
神は私を見捨てなかった。

そう、高等部の外部入学である。


高等部の入学式、正十字学園の腐女子界隈はざわついた。突然のイケメンたちの来訪である。それはまるで大天使が最後の審判にラッパを吹きならすがごとくだったとあるものは言い、菩薩たちが宇宙に届く仏塔から音楽を掻き鳴らして現世に現れたかのようであったと言うものもいた。

まず入学式の式典、新入生といえど持ち上がりの私たちは、新入生代表の男子に目を見開いた。
奥村雪男、眼鏡と黒子が色気を醸す、長身ながらしっかりとした体格の男子だ。眼鏡キャラが好みの同士は「眼鏡あれ」と言った。そして眼鏡があった。

続いて各クラスに散ってから、グループチャットに投稿が相次いだ。
まずは特進から、新入生代表の奥村雪男君の他に、ソフトモヒカンを金色に染めた目付きの悪い男前がいるとのこと。勝呂竜士というらしいその男前イケメンは、長身で鍛えられており、攻めか受けか意見が分かれると冷静に分析されていた。さすが特進である。

続いてD組、正十字学園には珍しいチンピラがいると連絡が入った。チンピラは青みがかった髪と紺碧の瞳の人間離れした外見で、近寄りがたいが整ったイケメンだという。
さらに速報で、チンピラは奥村燐といい、名字や外見からして奥村雪男の血縁関係である可能性が高いとのことだった。廊下を忍のように俊敏に動く同士たちがD組へ向かった。

私は冷静に自分のいるC組を観察する。このクラスは私しか担当がいないのだ。
教室を見渡すと、トイレから戻ってきたらしい男子二人組が後方窓際席に着席し、リア充女子がキャーキャー鳴き始めた。
普段そんな女子と相容れない私だが、今回ばかりは同意せざるを得ない。

ピンクの髪で制服を大胆に前を開けて着崩したチャラ男系男子と、白いカーディガンで萌え袖状態の綺麗系男前男子である。サッと黒板の名簿に目を光らせると、二人の会話から名前を聞き取り照合する。

志摩廉造と一ノ瀬朝祇だ。親しげに名前で呼び合う様子からして、恐らく中学からの仲だろう。しかも廉造君の方は京都弁。
さらに観察していると、チャラ男な廉造君は女好きなようでいて、朝祇君を見る目に熱が籠っている。愛の詰まった目線だ。
チャラ男はヤンデレと親和性があるというのが腐女子物理学における法則のひとつ。これはヤンデレに片足を突っ込んでいそうな感じもする。
ヤンデレというよりは、依存に近いか。

そこまで見抜いた私だったが、悪戯に説を提唱するのは流言飛語、まさに妄想。根拠を明示せねばならない。
とりあえずイケメン二人組の存在を報告し、経過観察に入った。





しばらく二人を見続けた。同士たちもそれぞれ観察をし、定期的に報告しあっている。
6月も過ぎ、暑さが気になり出した頃には、すでにかなりの証拠物件が出揃っていた。

まずひとつ、名前呼び。これはそれだけなら確かに当たり前だが、彼らが同じく仲良くしている勝呂竜士、そしてA組の三輪子猫丸との会話に特殊性を見出だせる。
なんと、志摩廉造および一ノ瀬朝祇の下の名前を呼んでいるのは、その二人だけで、勝呂竜士、三輪子猫丸は二人を名字で呼ぶのだ。

また、体育のときにも決定的な出来事があった。
それは、男子たちがウォーミングアップの筋トレをしていたときのこと。
腹筋の上体起こしで朝祇君の足を押さえていた男子が、「一ノ瀬足細いな〜、なんか変な気分になりそう」と言って足首を掴み、ぱかりと股を開かせた。要は正常位である。

それを見た廉造君は、笑いながらその男子をどついて退かしていた。だが、目は笑っていなかった。あれは完全に彼氏の所業である。
さらには起き上がった朝祇君をさりげなく抱き締めていた。

これらを根拠に、「志摩×一ノ瀬説」を提唱すると、同士たちは咽び泣いた。嗚咽とともに五体投地した。


しかし本当は、もうひとつ決定打があった。

それは、放課後の教室に忘れ物をして取りに来たときのこと。
誰もいないだろう教室の扉から、中が垣間見えた瞬間、音を立てずに立ち止まってしまった。

なんと、室内で廉造君が朝祇君にキスをかましていたのである。
立ち竦む私に気付いた廉造君は、朝祇君を抱き寄せてこちらにニヤリと笑みを見せ、口元に人差し指を立てて「しー」と無言で示した。

そのあとのことは覚えていない。鼻血が出たのかも分からない。
しかし、黙っとけと無言で言われた以上は、黙っておくべきなのだ。言いふらすような無粋なマネはしない。

ただ、ありあまる胸の高鳴りにしばらく寝ることができなかったのだった。


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