武器として


●4年前
柔造(21)+蝮(20)+夢主(14)



明斗は窮奇の血を引く、悪魔と人間のハーフだ。その血のおかけで、明斗は学校にも祓魔塾にも行かないままに祓魔師となり、現在は中二級である。
取得したのは騎士で、竜騎士の資格も勉強している。窮奇から引いた風を操る力を活かした接近戦を得意とする。
明陀宗の祓魔師は基本的に錫杖を使って騎士の資格を取るのだが、明斗は最大限窮奇の力を応用するため刀を使う。

何より、明斗は武器として志摩家に養子入りしたため、最前線で刀を振って体を張ることが求められる。血統主義の明陀宗において、僧正血統の志摩家の血を無駄にしないため、血を引かないながら志摩家に在籍する明斗が果たせる役割は大きい。
まさに"使い勝手がいい"存在だと自覚している。だからこそ、明斗はその役割を十分に果たすことが養子に迎えてくれたことへの恩返しになると考えていた。




ある日、京都出張所より、明斗、柔造、そして宝生家の長女・蝮の3人に嵯峨の山中で道路工事に伴って封印を解かれた悪魔を祓うよう任務が下った。
柔造は中一級、蝮は中二級であるため、悪魔も中級レベル。中二級の明斗を入れてちょうどよい。

正十字騎士團の黒い法衣を纏い錫杖を鳴らす2人と山中に入っていく明斗は、弱冠今年で15歳ながら2人に引けを取るつもりはない。僧正血統の後継者候補たる2人を、実質守るために明斗はいる。一応柔造が先頭、蝮が殿だが、いつでも明斗は前に出られるように備えている。

普段から仲が悪い柔造と蝮は会話がなく、木々のさざめく音や鳥の鳴き声、踏みしめる土の音、錫杖の揺れる音しか響かない。


「…はぁ、嫌やわぁ、なんで志摩家の申とこないな山の中…」


と、そこに蝮が吹っ掛けた。柔造は振り返りながら蝮を睨むが、「せやったら帰ってもろてええで」と言うに留めた。


「申と余所モンに大事な任務を任せてられる訳ないやろ」

「…今、なんて言うた」


しかし蝮がそう言うと、柔造は立ち止まってはっきり振り返った。挟まれた明斗や蝮も立ち止まる。


「申と余所モンなんぞに任せておけへん、言うたんやけど?その耳は飾りなんやろか」

「俺のことはなんぼでも言うてええ、せやけど、明斗は大事な志摩家の子ぉや。まだ14の子供の目の前で、言うてええことの区別もつかんのか、ええ?」

「おぉ、ホンマ嫌やわぁ…すぐ殺気だって、品のない」


明斗を挟んでいがみ合う2人に、思わず困惑する。いつもの言い合いとは違う、本気の怒気を柔造は滲ませていたからだ。それは、明斗のことを蝮が言ったからに他ならない。明斗からすれば、蝮の"余所モン"という言葉は間違ってはいないし、他の僧正血統も思っている者はいるし、何より普段の蝮からすればかなりソフトな言葉だ。

2人の口論はやがて明斗についての話から互いの学生時代の話に飛んだ。これはこれで仲がいいのではないかとすら思えてくる。


すると、明斗の中の悪魔に近い部分がざわついた。近くにそれなりの強さを持った悪魔がいる。
それは、急速にこちらへ近付いてきていた。

明斗は躊躇なく刀を鞘から抜いた。突然の抜刀に口論をしていた2人は驚いて喧嘩をやめる。

同時に、明斗は刀を思いきり横に薙いだ。その瞬間、猛烈な風が鎌鼬となって森を駆け抜ける。
木々が一斉に揺れて音をたてる。僅かなタイムラグのあと、悪魔のものと思われる悲鳴が聞こえた。だが、まだだ。


「来とるんか」


柔造は錫杖を構えて明斗の半歩前に立つ。明斗を挟んで反対側に蝮も数珠を鳴らして戦闘体制となった。


「姿を隠してる…目視での認識は難しい…」


明斗は悪魔の感覚に頼り、林の中の気配を辿る。目に見えない悪魔を前に、柔造と蝮は辺りを注意深く見渡した。

悪魔はどうやらこちらを窺っているようで、ウロウロとしていた。気配だけだと、一瞬相手の動きの把握が遅れてしまう。どうにか予測したいものだが、それは叶わなかった。


「…っ、まずい!」


悪魔は明斗の知覚の一瞬の隙をついて、こちらへ一気に距離を詰めた。しかも、背後に回ってからだ。迎撃は間に合わない。


咄嗟に、明斗は振り返りながら両側の柔造と蝮に向かって風を起こし1メートルほど吹き飛ばした。


「うおっ、」

「っ!!」


2人が地面に倒れ込んだ瞬間、悪魔の爪が明斗の肩から脇腹までを引き裂いた。痛みの前に強い衝撃が走る。しかし明斗は刀に瞬間的に鋭い風を纏わせ、正面にいる悪魔を思いきり叩ききった。
直後、引き攣るような激痛と熱さが傷口に走り意識が飛びそうになる。



「―――明斗っ!!」

「…何、しとるん…」


悪魔は無事に祓うことができた。地面に倒れる直前に柔造に抱き抱えられる。蝮は愕然としていた。


「なんで庇ったりしたん!?」


ついで、蝮は怒鳴る。なんだかんだ女性らしく心優しいところがある蝮のことだ、年下の明斗が年上の2人を庇って血を流したことに信じられない気持ちでいるのだろう。柔造は止血しようと、自身の法衣の袖を破って傷口に押し当てて縛る。


「…蝮さん、の言う通り…余所モンの、俺だから…志摩家や、僧正血統の、血を、守るための、武器に…」

「は……武器て……」

「喋らすな蝮!出張所に連絡しぃ、走るで」


柔造は応急処置を終え、明斗を抱き上げる。そして、すごい勢いで走り始めた。蝮は柔造の錫杖を持ち、携帯で出張所に連絡し医工騎士を手配させながら走る。
半分悪魔なのだ、そう大したことではなく、そのうち治る。だが、焼けるような痛みを前にもはや口が動かなかった。






その夜、無事に鍵を使って出張所にたどり着いた2人によって、明斗はすぐに手当てを受けられた。出張所の医務室の布団に仰向けにされ、今は寝るよう言われたところだ。
連絡を受けて駆けつけた八百造、ずっと待機していた柔造と蝮が布団の傍らに座ってくれている。
明斗は、切り傷によって発生した熱に浮かされ、息が荒く鳴ってしまうが、せめて確認だけはしたい。


「…っ、はぁ、柔兄、蝮さん、怪我、ない…?」

「あるわけないやろ!」

「柔造、そないな声出すんやない」


八百造にたしなめられたが、柔造は明斗の手を握り締める。火照った体には気持ちよく、思わず握り返してしまった。


「…っ、ちゃんと、武器の、お役目…果たせた…?」


今度は八百造の方を見て訊ねた。結局こんな怪我をしてしまい、迷惑をかけてしまった。2人に怪我をさせずに済んだことくらいしか役に立てなかったかもしれない。


「まだそんな…っ、お前は武器やない言うたやろ!!俺の息子や!!軽率なことして怪我すんやないドアホ!!」


柔造に言った側から八百造が怒鳴り、柔造が「おとん…」と呆れる。そして、柔造は明斗の頭を優しく撫でて微笑んだ。


「明斗はもう武器なんかやない。大事な志摩家の家族や。せやから、自分のこと、大事にしたってな。今日は俺がずっと側におるさかい、安心して寝てええよ」


そう言って、柔造は八百造と蝮に帰るよう促す。八百造は頷いて、何度も振り返りながら退室した。
一方で蝮は、一度こちらに顔を寄せた。


「…余所モンなんて言うて、ごめんね、明斗。私が悪かった。私のことを姉と思うてくれてええさかい、守ろうとせんと、自分のこと考えたってや」

蛇のような不思議な瞳を揺らして、優しく蝮は言った。やはり、優しい人だ。明斗は、姉と思えと言ってくれたことが嬉しくて、つい表情を緩める。


「…ありがとう、蝮姉さん」

「っ!!……い、今からでも宝生家の養子に…」

「するかボケ!はよ帰れや!!」


ぱっと顔を赤らめた蝮は突然そう言い出したが、柔造に押し退けられ渋々退室した。部屋はようやく静けさが落ちる。


「騒がしうて堪忍な。苦しいんは全部俺にぶつけてええさかい、体落ち着かせることだけ考えぇ」

「…うん」


柔造は明斗の目の上に大きな掌を置いた。ひやりとして気持ちがいい。熱と痛みの苦しさに眠れる気がしなかったが、柔造が握ってくれる手や、目を覆う掌が安心させてくれた。まるで、苦しさを吸いとろうとしてくれているかのようで。



そうやって何とかして眠りに落ちた明斗はまだ知らない。
志摩家と宝生家の子供たちの喧嘩が、やがて明斗を取り合うようなものになっていくことを。そして、明斗に対して柔造や金造の過保護が強まっていくことを。


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