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「志摩君のお兄さん、今何歳なん〜?」


すると、生徒席の一番後ろ、保護者ゾーンとの境界線付近に陣取っていた女子集団がすぐ近くにいた明斗に声を掛けてきた。リボンやらシュシュやらで髪を括った女子たちは、明斗の記憶の中の小学生女子よりもだいぶ大人びて見てた。ませている、と言った方が正しいか。


「…今年で15だよ」

「中学生なんか〜!大人っぽくてカッコええなぁ〜」

「なぁ〜!」


明斗はそうだろうか?と首を傾げる。少なくとも、すぐ上の兄である金造は高校生で明斗よりかっこよく見えるし、柔造なんて男前過ぎて叶う気がしない。

そこへ、廉造がムスっとしながらやって来た。


「アキ兄が困っとるやろ!」

「志摩君には話しとらんも〜ん」

「勝呂君にくっついてればええやろ〜」

「なっ…!」


女子たちが相手だからか、廉造は強く出れない。悔しそうにする弟の頭をポンと撫でてやり、女子たちに笑顔を向ける。もちろん、作り物だ。さすがに作ろうと思えば笑顔くらいできる。


「あんま苛めないでやって、俺の弟だからさ」

「お、おん、ごめんな、志摩君」


口々に謝る女子たちに、廉造は今度はしどろもどろになる。一頻り謝った女子たちは内輪の会話に戻っていった。

そのタイミングで、竜士と子猫丸もやって来る。


「何やっとんねん志摩」

「す、すんまへん…」

「ご迷わ…ごめんね、竜士さ…竜士君」

「…明斗は下手すぎか」


竜士に謝ろうとした明斗だったが、口調がまだ崩しきれていなかった。
実は、竜士には事前に敬語を使わず様付けもしないよう言われていた。当然、目立つからだ。柔造いわく、そういうのに一番敏感な時期らしいので仕方ない。標準語の明斗の敬語ならなおさらだ。だが、普段の癖はなかなか抜けない。


「難しいな、これ…」

「…悪い、変なこと頼んでもうて」

「謝ることじゃないよ。竜士君は偉いなぁ」

「なっ…!」

小6ながら、人に個人的に命令することの責任を感じているようだ。しっかり人の上に立つ者としての視座を持てているのはすごいことだ。
そう思って、竜士の頭を廉造と同じノリで撫でてしまったが、ハッとして引っ込める。


「で、出過ぎたマネを…!」

「…俺は弟か、言お思うたけど…まぁ、ええわ。俺は兄貴おらんさかい、こういうんも……」

「坊!アキ兄は俺の兄なんやけど!」

「志摩さん、そないにムキにならんでも…」


子猫丸が諌めるが、廉造はムスりとしてしまう。竜士は何やら思案顔だ。
どうやら怒らせてはいないようで安心する。つい敬語を外すため弟かのように扱ってしまった。


『次は、6年100メートル走です』


ちょうどそこへアナウンスがはいり、辺りの6年たちが立ち上がる。考え込む竜士とむくれる廉造は、子猫丸が引っ張っていった。



***


入場行進とともに子供たちがグラウンドへ入っていく。その近く、トラックスタート付近に剛造がカメラを構えている。何者も前を横切ることを許さない不断の構えである。
ゴール付近には金造。こちらも周囲に人を寄せ付けないオーラを纏っていた。

その後ろ、保護者撮影席に柔造が三脚カメラでもって撮影をしている。こちらは雰囲気こそ柔和だが、話し掛けられると思いきり睨み付けていた。

そして、グラウンド周囲の等間隔に宝生三姉妹が立つ。白銀の髪と凛々しい立ち姿は目立っていた。
自分が竜士の立場だったら泣いてた、なんて内心思いながらも、しっかり声援を送るべくグラウンドを見詰めた。少し離れたところには虎子もいる。志摩、宝生の母親たちと談笑しているが、その目線はグラウンドに一直線である。


数分後、いよいよ100メートルが始まった。

ピストルの音とともに、子供たちが走り出す。順調に進んでいき、4レース目で子猫丸がスタート位置についた。


「子猫丸〜!頑張れ〜!」

「いけ子猫ぉぉお!!」

「いけるでぇぇえ!!」


突然声援が激しくなった。保護者たちは何事かと辺りを見渡す。明陀宗の番になった途端これだ。
苦笑した子猫丸だったが、走り出すと非常に速かった。さすが、竜士や廉造とともに駆け回っているだけある。
明斗も声援を送ったが、必要なかったかもしれない。

みごと、子猫丸は1着でゴールしてみせた。


続く6レース、今度はいよいよ竜士だ。


「うぉぉおお!!ぼぉぉおん!!」

「竜士ー!!気張りぃやぁ〜!!」

「頑張ってくださ〜い!!!」


さらに声援が大きくなる。保護者たちはようやく明陀宗だと分かったらしく、またか、というように呆れていた。


走り出した竜士は、それはもう周りの子供たちなど眼中にないほど速かった。ずば抜けて速く走る竜士が生徒席の近くに来たところで、明斗も腹から声を出した。


「頑張れ!!竜士君!!」


気付いただろうか、と思ったら、ゴールしたあとすぐにこちらを向いてニカリと笑った。どうやら、しっかり届いたらしい。手を振り返してから、再びグラウンドに向き直る。
今度は廉造がスタートラインについた。


「負けたら許さへんで!!」

「負けたら家入れんからな〜!!」

「志摩の男として気張れやぁぁあ!!」


廉造となると、声援はもはや脅迫だった。金造や柔造の怒声に廉造が竦み上がる。竜士は呆れ顔だった。これはこれで兄貴たちの優しさなのだが、廉造にはあまり伝わっていない。少し可哀想だな、と思った明斗は、先程よりさらに大きな声を出した。


「廉造!!応援してるよー!!!」


スタート前だったこともあり、しっかりと明斗の声は廉造に届いた。少しびっくりしたような廉造は、満面の笑みで頷いた。

そしてスタート。
序盤で抜かされた廉造だったが、見た目に分かるほど歯を食い縛り、後半でなんと1着に躍り出た。そのままゴールし、見事に3人揃って1着をもぎ取った。


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