運動会
●4年前
明陀宗と夢主(14)
「では配置の確認を行う」
深刻な表情で、出張所の会議室に集められた面々。明陀宗の僧正血統である。八百造が正面に立ってホワイトボードを指しながら確認を行った。蟒は重要そうにバインダーに何やら書き込んでいく。
「宝生蝮、錦、青は等間隔にトラック沿いについて様子を逐一確認。志摩柔造は指定された場所にて撮影。志摩剛造はトラックスタート付近で、志摩金造はトラックゴール付近にて撮影。志摩明斗は生徒席付近で待機。その他は各々固まらず、かつ生徒席から最低30メートルは離れた場所にて待機。質問はあるか」
八百造の問い掛けには誰も答えない。八百造は頷いて、ホワイトボードをばしりと叩いた。
「ミスは許されへん。絶対納めるんやで…坊の晴れ姿を!!」
第六次運動会、と書かれたそれに、明斗は遠い目にならざるを得ない。
明日は、勝呂竜士ら子供たちの小学校最後の運動会である。
***
爽やかな秋晴れ、高く深い青空の下で、子供たちの歓声が響く。
何とも平和な光景。何もかもが小さく見える小学校の校庭には、ぎっしりと子供たちと保護者たちが集まっていた。
勝呂竜士、三輪子猫丸、そして志摩廉造の3人は今年で小学校を卒業する。その最後の運動会であり、何としてでも晴れ姿を納めようと明陀宗は僧正血統総出で任務に当たっている。もちろん、撮影や安全管理のためだ。
座主血統の一人息子たる竜士はもちろん、青い夜で親をなくし幼くして三輪家の当主となっている子猫丸も今回は重要な対象となっている。
しかし、その竜士がこうして明陀宗が総出で繰り出すことを嫌がっていた。理由は簡単、以前、和服姿の厳つい大人たちが大挙して押し寄せた結果、まるでヤクザのように見えて子供たちと保護者がびびったのだ。それで竜士は恥ずかしいやら明陀宗がヤクザに見られるのが嫌やらで、同じことはするなと念を押したのである。
そこで、八百造たち大人世代は、柔造ら子供世代に前面に出てもらうことにした。撮影や声援などは基本若者や奥方たちで行い、男衆は後ろで控える。
特に今年は宝生家の三姉妹と志摩家の三兄弟が全員高校生以上22歳以下と男女6人の若者世代がいる。
ただ、そうは言っても宝生家の三姉妹は全員白銀の長い髪で目立つし、柔造、剛造、金造は良くいえば男前、悪くいえば厳つい。ギリギリのラインである。ぱっと見柔和な柔造もすぐキレるため、人混みと失敗の許されない状況下でどうなるか分からない。
そうなると、最も年齢が近く、かつ見た目が怖くないのは明斗のみだった。つい最近に廉造の授業参観に行ったばかりでもある。そうして、竜士たちが長い時間を過ごす生徒席に控えて一番近くに立つ役目は明斗が負うことになった。
校庭のトラックに沿うように並ぶ生徒席。その一画に、6年生で同じクラスの竜士、子猫丸、廉造の3人が座っている。そしてその後ろがわの保護者区画に、明斗も落ち着かない気持ちで立っていた。
落ち着かない理由は3つ。まずひとつは、周りが保護者のお母様ばかりで14歳の明斗が場違いな気がすること。ちなみに竜士の母である虎子は虎屋で時間を工面して、競技のときだけ見に来るそうだ。
そしてもうひとつは、運動会自体が4年振りであること。明斗は小5の運動会に出てから、小6で志摩家に引き取られ学校に通わないまま今に至るため、この4年は運動会なるものに触れたことすらなかった。そもそも家族が見に来てくれた経験すらないため、どういう風に保護者として振る舞えばいいかも分からなかった。
最後の理由は、私服であることだ。明斗は普段、着物が私服だし授業参観も着物だったが、今回はさすがに目立つということで、服を買わされた。ちなみに蝮と柔造が激しい口論の末に買ってきたらしい。
といっても、ジーンズに白い長袖のシャツ、フードがついた黒いベストという普通の格好だ。シャツのシルエットが体にぴったり合うようになっており、袖は腕に沿って細く見えていた。腕の細さが目立つ上、余っていて指先近くまで隠れてしまいうっとうしい。フードの調節紐もボンボンのようなものがついていて、動く度に揺れて気になった。
「普通に14らしいかっこ良くてかわええカッコやんな」と柔造と蝮は満足そうだったため、変ではないのだろう。
それに、明斗を見た廉造もテンションをめちゃくちゃ上げて騒ぎながら褒めてくれた。周りの子供たちも明斗を見て、特に女の子が騒いでいたが、あれは大丈夫だったのだろうか。