その目に捕らわれて


●2030年5月
勝呂×主



第三小隊と行動を共にするようになって半月、すでにかなり慣れ親しんだところで、突然玲弥は藤本に呼び出された。准大尉としての仕事は最近なかったため、なんだか久しぶりに感じる。

ノックと同時に室内に入ると、タバコを吹かす藤本の姿。ちなみにあれは電子タバコだそうだ。


「おっ、来たか」

「…どーも」


適当な挨拶に適当に返し、デスクの前に立つ。藤本はタバコを口から離してスイッチを切り、机に置いた。


「第三小隊の調教はどうだ?」

「調教て……まぁ、ぼちぼち」


さすがに戦いに付き合うようなことはないものの、一応指導はしていたし、聞かれて答えるだけのものにはきちんと答えていた。


「そうかそうか。じゃあそろそろ本題なんだが…」


藤本はそう笑うと、引き出しから何かを取り出した。薬品だろうか、茶色の薬瓶に入った液体が揺れる。
ラベルには『aphrodisiac』とあった。


「…なんすか、それ」

「この薬品を使うと、兵士たちの戦場での集中力と戦意を著しく下げ、戦況を変えられるとされる」

「化学兵器は全面的に国際法で禁止されてる…サリンとかじゃねっすもんね」

「んな固い話じゃねぇよ」


けらけらと藤本は笑った。その反応に、サリンのような化学兵器を予想した玲弥は首を傾げる。


「媚薬だよ、び、や、く」

「………はぁ?」


思わず胡散臭い目を向けてしまうのも無理はないだろう。何を言うかと思えば、媚薬。


「まっ、とか言いつつこの媚薬は化学兵器の一種と言ってもいい。騎士團の技術部が作った、本物の催淫剤だ。効果はすげぇぞ?」

「うわ、本気で作ったのかよ…」


しかし、媚薬は二度の世界大戦の頃から作られてきた立派な兵器だ。士気を乱すということは、まだ人が前線に立っていた頃は非常に重要な作戦であったし、プロパガンダはそういうものだ。
今は人工知能とロボットが最前線に立つため、主に占領地奪還や途上国紛争で需用があるだろう。特に前者は、東欧を占領され、ベルリンへの無差別空爆が危惧される欧州戦線で想定される。


「すでに臨床試験はクリアしてて、一般人への効果は98%、兵器としては完成している。あとは、特科大隊への効果の臨床データが必要だ」


そこで、ようやく玲弥は話が読めた。それでも、まさかそんな、という気持ちもあって、つい先を促してしまう。


「……それで?それがどうしたんすか」

「感付いてるとは思うが、葛城准大尉、これを任意の能力者1名に使用してきてくれ」

「………えっ、」


しかし、ほんの少しだけ思っていたのと違った。てっきり玲弥が試すことになるのだと思ったのだが、指令は任意の1名への使用。


「……てっきり俺が飲まされるのかと」

「お前流されるだろ、すぐに」

「………っ、」

「これは、なるべく流されず、不屈の意思を持って、そういうことにうつつを抜かさないような奴にこそ試されるべきなんだ」


なるほどな、と玲弥はようやく理解した。戦場で集中する兵士に効くかどうか試すには、意志の強い者でなければならない。そうでなければ当てにならないからだ。


「だから志摩家の連中とかはダメだぞ、あいつらは猿だからな。あと雪男もやめてやってくれ、あいつメンタル弱いんだよ」

「………雪男以外で真面目な意志の強い奴とか……」

「いいから見つけ出して誘ってこい。服用後に、意志が負けて襲ってくるかどうかまでは観察するように」

「…りょーかい」


服用しても耐えきれてしまう可能性もある。そうなるかどうかを見極めるには、襲い掛かって来るかどうかがカギになる。確かに、これは玲弥が適任だ。薬で理性を失った能力者相手に襲われて確実に逃げられるのは、転移能力を持つSSランクの玲弥だけだからだ。


「いいか、流されて最後までヤるなよ」

「んなことするか」


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