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第三小隊を見送ってから、玲弥と勝呂はソファでダラダラと過ごしていた。基地に残るとはいえ休みは休み、きちんとメリハリをつけることが大切なのは真面目な勝呂も理解していた。
玲弥はよく寝るし、どこでも居眠りするので、日々休みまくっているため、あまりいつもと変わらないが。
結局2人で淹れたコーヒーを飲みながら、他愛ない話をして過ごす。同年代といってもずっと傭兵生活をしているのだ、世間の流行などの話ではなく、それぞれの昔話だったり、訓練中にあった出来事だったり、コーヒーの好みだったり、そんな話だった。
会話をするのが得意ではない玲弥のペースであるため、それはとてもゆったりとした時間だったが、勝呂もそれは同じらしい。もともと口数が多いわけではないようだったから、玲弥も気を使わなくて済んだ。
別に普段、藤本やシュラ、柔造との会話で気を使っているわけではないのだが、相手の先回りしてくる会話だとそれにかまけて言葉が少なくなっていく。それを意識すると、どうしても言葉を選んでそっけない返しになってしまうのだ。
勝呂との会話は、勝呂とて会話に先回りするようなことはまだできないし、玲弥と同じレベルの思考回路だった。それが、心地よいテンポの会話となった。
そんな穏やかな会話をしているときだった。
玲弥の腕時計が電話を知らせ、玲弥は横になっていた姿勢から起き上がる。藤本からの、テレビ電話だ。
「会議中、だよな…」
「大尉?なんでまた…」
2人して疑問に思い、玲弥は受話する。
「こちら葛城」
『初めまして、葛城准大尉』
「……誰だ」
腕時計から表示されたホログラムに映るのは、見知った顔でなかった。番号は藤本で間違いない。
一気に思考が冴えた玲弥は、鋭い視線を画面の向こうに向けた。
『私は秘密結社イルミナティを率いています。私のことはルシフェルとお呼びください』
「…ご丁寧にどうも。正十字騎士團日本支部准大尉の葛城だ。で、何の用だ。大尉はどうした」
ルシフェルと名乗った男は、流れるようなブロンドの髪に精巧な顔、まさに美形という呼ぶにふさわしい顔立ちをしていた。
『藤本大尉を含む、日本国国家安全保障上級会合の参加者は我々が拘束しています』
そう言って、ルシフェルは律儀に画面を会議室に向けた。そこには、後ろ手に拘束された官僚や騎士團の上層部が映っている。近くには藤本の姿もあった。
ケガをしている者はいないようで、犯人は他に10人ほどが室内で銃を持って構えていた。
『参加者24名とその秘書、受付の女性、計36名を人質としてとっています』
「…わざわざ俺に連絡したのは、俺たち特科大隊を知っているってことだな」
『さすが、その通りです。何せ我々も能力者ですから』
「なっ…」
百歩譲って国防省を占拠することまではできたとして、特科大隊の実力者が揃う参加者を全員拘束したことが疑問だった。なぜ、そんなことができたのか。
相手が能力者となれば話は別だ。にわかには信じがたいが、どうやら相手は騎士團以外の組織化された能力者集団らしい。能力者どうしの戦闘など、ビルひとつの損失では済まない。
『それだけではありません。我々は、都内20か所に爆弾を仕掛けました。それも、特大の』
「……くそ、そういうことか」
隣の勝呂が固まる。とことん、こちらに不利な状況だったからだ。
「…それで、要求はなんだ」
『ゲームをしましょう。これから1時間以内に、すべての爆弾を見つけ処理できたらあなた方特科大隊の勝ち。ひとつでも爆発すれば、その場にいた人々とここにいる36名が犠牲になります。もちろん、人質解放など試みようものならその場ですべて爆弾を爆発させますので』
何をふざけたことを、と玲弥は奥歯を噛みしめる。相手が西洋系の顔立ちだったから予想していたが、どうやら相手の目的は大戦の戦局には関係ないらしい。
「勝ったらどうすんだ」
『当然、人質を解放して私たちは消えます』
「逃げられると思ってんだな」
『もちろんです。あぁ、あと、すでにこのことは警察に連絡済みですので』
「は…?」
『さぁ、カウントダウンを始めましょう。スタートの合図は新宿からです』
すると、途中で電話に出ていた勝呂が焦ったように声を出した。
「お前らすぐそこ離れるんや!!」
しかし、その電話口からは激しい轟音が聞こえた直後、すぐに通話が途絶えた。
玲弥の通信も同時に切れ、2人とも無音となった電話を前に無言になった。ゲーム、とやらの始まりは、すでに切って落とされたようだった。