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廉造たち第三小隊のメンバーは、新宿駅東口の地下通路にいた。信号待ちや人込みに悩まされる地上より、地下通路を通った方が早く着く。
今日は平日だし、昼間なのでそう人は多くないのだが、そうはいっても天下の新宿だ。
通路内にもたくさんの人が行き来しており、それは遊んでいる学生や買い物に来た主婦、子連れ、スーツのサラリーマンやOLなど多様である。たとえ戦時下であっても、日々の暮らしは維持されるのだ。

久しぶりに平穏な光景を見ることができたからか、メンバーの顔も晴れやかだ。渋っていた出雲や、新宿は初めてと言って緊張していたしえみも楽し気にしている。
かわええな、と廉造も嬉しくなるが、この通路を抜けて地上に出たら目的地のデパートで分かれる。男女でデパートが分かれているのだから仕方ないが、むさくるしいな、とは思う。
せめて玲弥でもいれば空気も爽やかやねんけど、と廉造が内心でぼやいていると、先頭の子猫丸が突然立ち止まった。

おしゃれに気を遣う子猫丸は慣れたように迷わずに目的のデパートまで足を進めていたはずだがどうしたのか。
後ろの廉造たちも止まると、迷惑そうに人々が避けて通り過ぎていく。


「どうした?子猫丸」


燐が尋ねると、子猫丸は険しい顔をしてメンバーを見渡した。


「…つい、この前までの戦いの名残で、特定のものに対する感応能力が発揮されたままやったんですけど…火薬の臭いがするんです、しかも大量に」

「なっ…!?」


子猫丸の感応能力はAランク、間違いはそうそうない。しかも今は実戦帰りの敏感な時期だ。
こんな駅前に火薬など日常的に置かれるわけがない。


「たぶん、天井です。上からするんで…」

「ど、どないするん?言うてかて、天井なんて、業者じゃなきゃ入れへんやろ」

「そもそもあたしたちは公務外よ、勝手に力を使えば騎士團の規律にも法にも反することになる」


職務外の力の使用などご法度だ。このままではどうすることもできない。


「で、でも今日は上級会議だから、雪ちゃんも霧隠中隊長もいないよ」


しえみの言う通り、今日に限って少尉以上は基地にいないし、会議中であれば連絡がつかない。


「玲弥君に連絡して、玲弥君からどこかに連絡してもらう方がええですよね」

「せやね、一応坊にも連絡してみるわ」


子猫丸は玲弥に、廉造は勝呂に電話をかける。子猫丸はなかなか繋がらないようだったが、廉造はすぐに繋がった。


『なんや、今立て込んでるんや』

「坊、今新宿東口の地下通路におるんですが、子猫さんが火薬の臭いがする言うてて」

『なっ、それホンマか!?』


やけに驚く勝呂に廉造が訝しんだ、そのときだった。


『お前らすぐそこ離れるんや!!』

「え、」


その言葉に、返事をすることは叶わなかった。


突如として耳をつんざくような爆発音が轟き、耳が水中にいるかのように聞こえにくくなる。
同時に、天井の明かりが瞬いて消え、大量の砂埃が通路に充満する。

ついで、天井がガラガラと崩壊し迫ってきて、人々が悲鳴を上げてしゃがみこんだ。
天井に埋め込まれた電線が切れて火花を散らし、その光が通路の阿鼻叫喚を照らし出す。

壁面とともに倒れてくる広告に下敷きになろうとしているサラリーマン、手に持ったコーヒーのカップを落として倒れこむ女子高生、子供を抱えて蹲る母親、瓦礫に押しつぶされるギターを背負った男子大学生。

そういったことが、まさにたった一瞬に目に入った。
その瞬間はすぐに暗闇に閉ざされ、強い衝撃が頭を襲う。手に持っていた騎士團支給の携帯を落とした廉造は、急速に意識が遠のくのを感じた。


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