Contemporary II: the sin
−世界恐慌



1920年代、欧米諸国では全体的に農業不況が起きていた。

先進国は工業化していたためその影響は少ない、そう思われていたが、農民の没落は着実に国を衰退させていた。

アメリカでは機械化と合理化の流れで雇用が抑制され、繊維、石炭産業も衰退、労働者も没落の一途を辿った。

さらにソ連が成立し市場は狭まり、気づけば消費者がいなくなっていた。

それに投資家が気付いた1929年の秋。

10月24日、暗黒の木曜日。

ニューヨーク株式市場の株価が大暴落した。



世界恐慌の始まりである。









「今、なんつった」

アルレシアはゆっくりと尋ねた。

「っ、ニューヨーク株式市場で、株価が大暴落しました」

あいつ、やりやがった。

アルレシアは奥歯を噛み締めた。

世界でひとり勝ち状態だったアメリカが転ぶ、それは世界の転倒を意味していた。

アメリカ資本に頼るアルレシアは、農業不況もあって危機である。

「くそ、どうしようもない…」

アルレシア一国では、なにもできないのが実情だ。

「アメリカさんから会議のお知らせが来ています。言いたいことを言ってくれ、と」

「ほー…覚悟はできてんのかあいつ…」

アルレシアはすでに頭痛が始まったのを感じつつ、会場へ向かう準備を始めた。



***



アルレシアの主要産業は貿易や加工だ。

今回の不況により、輸出がほぼ不可能になり、内需は農業不況で期待できない。

さらにそれによって経済が疲弊し、より企業は労働者を解雇し失業者が増え内需が落ち込む、という悪循環。


こうして、アルレシアの生産低下率は−35%を越そうかというところまで来ていた。



会場にやってきたアルレシアは、禍々しい気を発するオランダの隣に座る。

「久しぶり…大丈夫か?」

「んなわけないやろ…くそ、あのぼんくら…」

「俺は特に発言する気はねえけど、オランダは?」

「俺も特にはせん。無駄やざ」

「まぁお前はインドネシアあるからいいだろ。俺はちょっと…マジできついかも」

そう、オランダやイギリス、フランスは海外に植民地を持つ。

そのためまだマシだが、アルレシアはこの恐慌が直撃だ。

「めどはついてるんか」

「いや…」

アルレシアはアメリカを罵るスペインを見ながらため息をつく。

「内需の確保がほぼ不可能だ…これじゃ、いつまでたっても経済基盤が崩壊したままだ」

「まずいな…」

オランダは深刻そうに眉を寄せる。

こうして親身になってくれるやつがいるだけでアルレシアは満足だ。

「もう二、三発恐慌やってくれていいからね」

ニコニコとするロシア。

「俺も社会主義にしようか…」

「おい」

「冗談だよ」

「洒落にならん」


しかし、あながち間違いではないのも事実だった。

翌年、アルレシアの選挙で共産党が大勝したのだ。

社会主義になるわけではないものの、ロシアの影響が強まりかねない。

周辺国はそれを警戒した。

アルレシアは高熱の中ロシアから電話をうける。

「もしもし…げほっ、」

『もしもしアルレシア君?元気?』

「嫌味か」

『まさか!!でも、僕ならなんとかできるかもね?』

「あいにく…北欧があるからお前とは地理的にも一緒になれないぞ」

『北欧も僕の家になれば問題ないよ。アルレシア君とサンドイッチにしたりね』

「オセロじゃねえんだから…」

呆れたようなアルレシアにロシアも笑う。

『でも実際そういうもんだよ?ま、考えといてよ』

「…ん、」

電話を切り、アルレシアは息をつく。

ロシアとの裏を読み合う会話は疲れる。

アルレシアは屋敷のバルコニーに出た。

首都の街はさらに拡大しているが、そこにいる人々は貧困の中だ。

空に聳える教会の尖塔が鐘を鳴らす。

あの教会が建てられたとき、スペイン領になる直前だが、あの頃はアルレシアは西欧トップクラスの大国だった。

それが今ではこうだ。

イギリスやフランスがブロック経済をつくりだすと貿易を拒否され、永世中立を盾に防衛費を削減しまくる。


まさに弱小。

アルレシアは自嘲気味に笑って、内職の続きを始めた。


***


1930年代に入ると、情勢はさらに進んだ。

共産党政権は失政により倒れ、選挙が行われることにった。

すると、急進右派勢力が武装蜂起を起こしたのだ。

「手を上げろ!!」

「あ?」

宮殿の奥、上司と会談していたアルレシアに銃が向けられた。

部屋に入った来たのは武装した男たち。

「これより、我々全アルレシア労働者党が政権をとる!!」

アルレシアはすぐにこいつらがファシストだと気付いた。

「次はお前らか…」

厄介な事態に頭痛が酷くなる。

「首相は射殺させてもらう」

男たちが上司に狙いを定める。

アルレシアはすかさずそれを制した。

「ここをどこだと思っている…王宮での暴挙、不敬で捕らえられたいか」

流血は許さない、その気迫が伝わったのか、男たちが怯んだ。

するとそこへ、さらに慌ただしく人々が入ってくる。

「軍だ!!即刻銃を捨てなさい!!」

軍の到着により、男たちは完全な敗北を悟ったらしい。

銃が大理石に落ちる鋭い音が響いた。


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