Contemporary III: make us one
−今、再びの板挟み
各地で多大な犠牲を出した大戦は終わった。
しかし、新たな火種はすでに舞い上がろうとしていた。
ロシアが解放したハンガリー、ポーランド、スロバキア、ブルガリア、ルーマニアは次々と人民共和国として社会主義、衛星国化。
フランスやイタリアでもレジスタンスを行った共産党が勢力を拡大していた。
同様に、アルレシアでもレジスタンスを行っていた共産党が台頭する。
1947年4月、アルレシアでは選挙が行われ、共産党が政権をとった。
共産党は王政を廃して社会主義化すべく、その準備を始めた。
そんな中、6月にアメリカはマーシャル・プランを発表。
支援受け入れを西ヨーロッパ各国は表明していった。
ロシア影響下の国々はもちろん黙殺し、ヨーロッパの分断が早まることとなる。
そして、アルレシアの混乱の引き金となった。
7月、共産党政権は共産主義宣言を発表。
内容は、王政の廃止、それに伴い国号をアルレシア王国からアルレシア人民共和国へ変更、また憲法をほぼ完全に作り替え一気に共産主義化を始めることだった。
さらにマーシャル・プラン受け入れも拒否し、いまだ荒廃したままの国土を国民に再分配しようとした。
これには選挙で票をいれた人々も含め反対し、宣言の翌日から首都で大規模なデモが起こった。
すると右派勢力がこれに便乗しクーデターを起こし、政権を奪った。
右派政権はアルレシア国臨時政府と名乗り、反共の立場に立ち、マーシャル・プラン受け入れも表明した。
だが、それだけに終わらない。
王政の存続と冷戦の否定、独自路線を訴える左派勢力がさらにクーデターを起こしたのだ。
左派も右派も反共ではあったが、王政に関して右派は無関心で、冷戦に関して左派も無関心だった。
首都で左派と右派が戦闘状態になると、首都を逃れた共産党は南部で再び政権再興を宣言した。
南部はレジスタンスが活発で、共産党の強力な支持基盤であったからだ。
この事態に慌てたアメリカとイギリスは右派を直接支援したため、左派政権も王室が避難していた西部の都市へ移動した。
西部は王室の保養地や緊急時の避難施設があり、王室と左派の支持者が多い。
首都及び東部を確保した右派政権は引き続き臨時政府として活動することを決めた。
こうして、アルレシアには左派によるアルレシア王国政府、右派によるアルレシア国臨時政府、共産党によるアルレシア人民共和国政府の3つがそれぞれ西部、東部、南部に同立してしまった。
三つ巴の第二次アルレシア内戦だ。
ロシアの支援を受ける共産党と、アメリカの支援を受ける右派は圧倒的なようで、その実、アルレシア陸軍のほとんどが左派についていることからそれぞれの力は拮抗した。
激しい戦いが繰り広げられ、アルレシアは2000年近い歴史の中で最も疲弊していた。
内戦開始は7月頭からだったが、同じ月、マーシャル・プラン受け入れのための欧州復興会議が開かれることとなった。
これに対しアメリカは、アルレシアへの参加を呼び掛けた。
もちろん、アメリカを始め西側と称されるようになった国たちはアルレシア国臨時政府を承認しており、そこに対してだったが。
一応参加するため、アルレシアは重い体を引きずってパリへ向かった。
***
会場に着いたアルレシアは、もう耐えられないとばかりに椅子に座る。
「っはぁ…」
膝が笑い、節々が傷む。
高熱もあり頭は朦朧としている。
「アルレシア兄ちゃん、大丈夫?」
そこへ声をかけてきたのは、イタリアだった。
「イタリアか…久しぶりだな」
「…うん」
旧枢軸だからか、イタリアは複雑そうだ。
アルレシアは苦笑して、その髪の毛をかき回す。
「気にすんな」
「ヴェー…」
抵抗もせず、イタリアは眉を下げた。
「これからだろ」
「…ごめんね、大変なのはアルレシア兄ちゃんなのに…」
「その感じがイタリアだろ」
ほら席つけ、と促せば、イタリアは素直に頷いて席に座った。
「アルレ、大丈夫か」
ついで、隣にオランダが腰かける。
「オランダ…まぁ、大丈夫」
「嘘やざ」
「…正解」
オランダの冷たい手がアルレシアの頬を撫で、目を閉じる。
「オランダ…」
「なんや」
「…すげえ…苦しい…!」
同じアルレシア人たちが戦う今、その死や悲しみの痛みは心臓を潰そうとする。
何でもないような振りをしようとしても、できなかった。
「…っ、アルレ…」
自分も痛そうにするオランダに、少し心が安らぐ。
「なんかちょっと…17世紀前半に戻りたいな」
オランダ領時代を偲べば、オランダは苦笑する。
「その方がいっそ楽やろ」
「確かに」
アルレシアも笑って、オランダの手を外した。
「いつでも俺の家に住んでええんやで」
「はいはい」
口癖のようなそれを流して、アルレシアは参加国を見渡す。
国連に入っていないアルレシアが、こうやって多くの国が集まるのを見る機会は稀だろう。
これから孤立化していくだろうことを想像して胸が痛む。
それを振り払い、アルレシアは机の資料に目を通した。