Contemporary III: make us one
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10月、アルレシアはロシアに呼ばれモスクワに向かっていた。
コミンフォルムが結成され、アルレシアも参加することになったのだ。
ロシアたちはアルレシア人民共和国を承認しており、共産党はコミンフォルムへの参加を即断した。
政府が3つもあるが故に、こうしてアルレシアは両陣営を往来しなければならない。
ロシアの家に着くと、使用人姿のブルガリアと遭遇した。
「ブルガリアか…?」
「あぁ…アルレシアか…」
「…、元気ないな」
「そりゃな…ハンガリーとかチェコもロシアさんに圧力かけられてこんななんだわ」
「そうか…」
ブルガリアはため息をついて箒を動かす。
「悪いことは言わないからさ、アルレシアはこっち来ない方がいい」
「…あぁ」
微妙な空気のままアルレシアはブルガリアと別れ、ロシアの部屋に向かう。
「ロシア、いるか」
「あぁ、アルレシア君、いらっしゃい」
ニコニコと悪いながらロシアはアルレシアを迎える。
「で、話ってなんだ?コミンフォルムは共産党の繋がりだろ?」
「そうだよ。今日はね、コメコンに入らない?っていうお誘いだよ」
「…、マーシャル・プランの対抗馬か?」
「そういう見方もあるよね」
「いいのかよ、右派政権はマーシャル・プラン受け入れるんだぞ」
「それは認めないよ?右派も左派も倒れてもらわないと。安心して、アルレシア君が望むなら派兵するからさ」
「…、第三次世界大戦には早いんじゃないか?」
「ふふ、」
アルレシアはロシアの本気にぞっとした。
このまま内戦が続けばどうなるか分からない。
いや、終結しても右派が勝てば侵攻してくるかもしれない。
「なんでそんなこだわるんだよ。西側に囲まれてるんだぞ、俺は」
「だからだよ。君が僕の仲間になれば、みんなを挟み撃ちにできる…前言ったよね、オセロみたいにって」
以前、共産党が政権をとったときの電話で話したことだ。
「…悪いけど、俺はお前らの争いなんて毛ほども興味がない。他を当たってくれ」
「僕は君に興味があるんだけどなぁ。君が僕の友達なら…どんなに素敵だろうって、ずっと思ってたんだ」
「ただの友達ならいいさ。それじゃ済まねえだろ」
きっぱりと切り捨て、アルレシアは立ち上がる。
「…君は僕を理解してくれると思ったのに」
体のわりに子供っぽいロシア、アルレシアは普段なら甘やかすことが多いが、今は言わなければならない。
先程のブルガリアのこともある。
「あのな…他人を理解しようとしないくせに、理解されると思うなよ」
そう言って、アルレシアは踵を返した。
***
1948年2月。
アルレシア軍や義勇兵の力により、左派政権が首都を制圧した。
右派政権は外港に逃れそこを根拠地としたが、左派政権は選挙を実施。
結果、冷戦に巻き込まれることを怖れた人々の票が一ヶ所に集まり、左派政権が正式に政府として国民の支持のもと立脚した。
依然として南部には共産党政権が、東部には右派政権が構えるが、内戦状態は収まった。
しかし西側は右派政権を、東側は共産党政権を承認しているため、どこの国にも承認されていない左派政権が正式にアルレシアを統治するという状況になった。
国際会議には必ず左派政権の代表が右派、共産党代表とともに出席するという協定も決められ、ようやく国内は落ち着いた。
そして3月、第二回の欧州復興会議が開かれることになり、アルレシアは再びパリへ向かった。
会場に入り、アルレシアは同じ席に座る。
輪になった座席はすぐに他の国たちが埋め、オランダも座る。
「あれ、座席増えてないか?」
「…あぁ、せやな」
ひとつ座席が増えており、どこか加わったのかと首を傾げる。
もともとこの会議にはアルレシアの他に、イギリス、フランス、ノルウェー、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、イタリア、ポルトガル、スイス、オーストリア、ギリシャ、アイスランド、スウェーデン、アイルランド、トルコの計17の国が参加していた。
それが、ひとつ増えているのだ。
そのひとつ以外の席が埋まったところで、会場の扉が開く。
「遅れてすまない」
―――現れたのは、ドイツだった。
アルレシアは驚いて音を立てて立ち上がる。
「っ!聞いてない」
「アメリカと協議して、ドイツも参加することになったんだ」
イギリスが説明するが、アルレシアは表情を険しくする。
「そうか。なら、俺は参加を辞退する」
「は!?」
イギリスは目を見開いた。
「アルレは先の国王の勅令に基づいて、恒久的にドイツと国交断絶しとるんや」
オランダが呆れたように、イギリスを責めるように言った。
「んなこと言ってる場合かよ!」
「そうだよアルレシア!そりゃお兄さんだって嫌だけど…」
「お馬鹿なことを言うのはよしなさい」
「アルレ兄ちゃん考え直したって!」
各国が口々に止める。
心配してくれているのもあるし、このままアルレシアが抜ければ東側につかれてしまいかねないという不安もあるだろう。
「悪いな。勅令は破れないんだ」
「そげなこと言わないでくんちょ!左派政権だからってそんな縛られる必要ねえって!」
デンマークにアルレシアは首を横にふる。
「左派が正式に政権とったからってのもある。右派だったら王政を廃して勅令無視しただろう。でも、俺自身も破りたくないんだ…大事な人だったから」
ドイツはそれを聞いて表情を軽く歪めた。
「アルレシア、すまない…謝って赦されることではないが、謝らせてくれ」
「…、」
アルレシアは耐えるような顔をしてから、何の反応も返さず背を向けた。
そのまま制止の声も聞かず、会場を出てしまった。
「…だめ、なのか」
ひどく傷ついた声を出したドイツに、オランダは冷たい目を向ける。
「一番つらいんはアルレや」
しん、と会場には重たい沈黙が残された。